act.9 パラダイス・エンジン・システム

 社長室と書かれたプレートの前に立つ。ネーゼ様が丁寧にノックすると中から「どうぞお入りください」との声がした。俺達は揃って中へ入った。


 出迎えてくれたのは妙齢の美女。ショートヘアで恐らく20代半ば。長身でスリムな体形に紺色のスーツを着こなしている。モデル体形とでもいうような完璧なプロポーションだった。どちらかというとぽっちゃりで胸元豊かなネーゼ様とは対照的である。

「ようこそ異界電力本社へ。私は社長秘書の松本奈緒と申します。あなた達のご来訪を歓迎いたします」

「歓迎ですか?あなた方とはむしろ敵対していると思うのですが」

 ネーゼ様の言葉に首を振りながら返事をする奈緒。

「いえ、歓迎いたします。この狂った発電プラント『パラダイス・エンジン・システム』を破壊して欲しいのです。そして、暴走する社長トーマスを止めて欲しいのです」

「それは会社に対する裏切り行為なのではありませんか?」

「いえ、裏切ったのはトーマスです。このような狂ったシステムだったとは、他の誰も知りませんでした」

「狂ったシステムとは、どんな?」

 ネーゼ様が問う。生命を燃料に発電するという禁忌のプラント『パラダイス・エンジン・システム』についてはその概要しか情報が無い。

「生きた人間に対しては、その生体エネルギーを抽出します。本来は眠らせたまま数十年使用できると見積もられていましたが、実際には一年程度しか生命を維持できませんでした。そこで、更に狂った計画を実施したのです。それは、死者の魂を取り込み、その苦悩や怨念をエネルギーに変換するという信じられないプラントでした。異世界転移の技術を用いそれが実現されたのです」

 悲痛な面持ちで俯く奈緒。

「確かに、それは放置できない問題ですね。死者の魂は霊界に帰り癒しと安寧を与えられるべきなのです。それを現世に留めて酷使するとは……煉獄の魔王ですらそのような行為はしないでしょう。無慈悲とはこの事です」

「魔王よりも無慈悲か……、どんだけ無慈悲なのか想像できんな」

「そうね」

 俺達の言葉に深く頷く奈緒。

「あれは存在してはいけないもの。あなた達の力で是非破壊して欲しい」

 目に涙を溜め嘆願してくる奈緒。俺とネーゼ様は頷きあう。

「分りました。お任せください。必ず破壊してみせます」

「話の途中で申し訳ありません。ハナダ氏、オルガノ・ハナダは何処にいるのでしょうか」

 金森が口を挟んでくる。当然、俺達が疑問に思っていた事だ。

 奈緒は俯きながら返事をする。

「彼は、ハナダ氏は『パラダイス・エンジン・システム』内に囚われています。そこにトーマスもいるはずです」

「まさか、ハナダ氏は生体エネルギーを抽出されているのか?」

「恐らく」

 俺の問いに沈痛な表情で答える奈緒。

「早く助けないと」

「そうだな」

 金森の表情にも焦りが見える。

「一つお願いがあります。私も連れて行ってください」

「どうしてですか?」

「私でないと、彼を、トーマスを止められないと思います」


 ネーゼ様は彼女の眼を見ながらしばし沈黙する。


「分りました。一緒に行きましょう」

「ありがとうございます。少ないですが武器もあります。よろしければご利用なさってください」

 鍵付きのロッカーには拳銃とアサルトライフル、サブマシンガンなどが収納してあった。俺はMP5とベレッタ92を掴む。金森にはM16と予備弾倉を持たせた。奈緒はワルサーPPKを掴みポケットに入れる。

「私は銃を扱えませんが」

 金森はM16を握り締め震えながら言う。

「持っていてもらうだけでいい。全長の長いライフルは人形の操縦席には邪魔になるからな。こっちのサブマシンガンなら場所を取らない。そういう事だ」

 俺の言葉に金森が頷く。弾倉や安全装置を確認し、ホルスターに収めた。

「では参りましょう」

 ネーゼ様の言葉に皆が頷く。

 行先はこの世の地獄と化した『パラダイス・エンジン・システム』である。


※銃器の解説を軽くしときます。

MP5:H&K社製のサブマシンガン、コンパクトな形状で拳銃弾を使用する。使用弾薬は9x19mmパラベラム弾。全長550mm、重量3.08kg、発射速度800発/分、銃口初速400m/s、有効射程200m。ハーゲンが操縦席に持ち込むのにぴったり。

ベレッタ92:イタリアベレッタ社の自動拳銃。米軍で正式採用されたことで有名になった。こちらも9x19mmパラベラム弾を使用。装弾数は15+1発。全長217mm、重量950g。

M16:こちらは米軍のアサルトライフル。5.56x45mm NATO弾を使用。全長999mm、重量3500g、発射速度900発/分、銃口初速975m/秒、有効射程 500m。サブマシンガンとの性能差は歴然です。

ワルサーPPK:007シリーズで有名な小型拳銃。今回は.32ACP弾(7.65x17mm)仕様のようですね。装弾数、7+1発、全長155mm、重量635g。だいぶ小さいので女性にも扱いやすい。ルパンが持ってるのはワルサーP38。大型です。ちなみに次元の持ってるのはS&W M19で357マグナムなんだね。357マグナムと言えばシティハンター冴羽獠の使っているコルト・パイソンもそうです。クリント・イーストウッド主演のダーティハリーではもっとデカい銃、S&W M29ですね。いわゆる44マグナムです。この銃は本来狩猟用なんですが……。


 あ、物凄い脱線してますね。失礼しました。

 次回、破壊神のキッス。こんな銃では到底太刀打ちできない相手です。公開までもう少しお待ちください。

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