act.5 EMPトルネード vs.T

 俺達は0番エリアへ向かう橋梁に差し掛かっていた。

 橋の中央にデンと構えている白い巨体があった。


 あからさまに通せんぼをしている。

 全高は15m。

 大きい。

 まるで弾道ミサイル運搬用の幅広い台車に乗った巨大なトーテムポール。通常の台車と比較しても幅は倍くらいあるかもしれない。概ね10m。さらにアウトリガーを張り出し車体を固定している。これは狙い撃ちし放題って事なのだが、残念な事に120㎜砲、76.2㎜砲両方とも破損したので放棄した。手持ちの長距離用装備はロケットランチャーのみ。俺は弾速の遅いロケット弾を4発発射した。

 その瞬間、奴の体は回転し始めた。瞬間的に竜巻が発生し、弾道がそれたロケット弾は護岸部分に命中した。

 奴は停止し、今度は丸い頭部が光り輝く。そしてスパークした。

 周囲に放出される電気火花。それは強力なEMP、電磁パルス兵器だった。

 その時、ネーゼ様から精神会話が繋がる。

「ハーゲン。無事かしら。強力なEMPの影響で車と電子機器、無線が破壊されました。アレはタイプT、ツイスターです。武器はEMPと体の周りに発生させる竜巻です。他の武装はありません。ゼクローザスは健在ですか?行動不能ならば撤退します」

「大丈夫です。ゼクローザスの出力系統は電子ではなく霊子です。問題ありません。外部兵装の方がブラックアウトしましたのでパージします」

「アレはただの木偶の棒だそうです。ブッ叩いて海に沈めちゃいなさい」

「了解しました」

 なるほど、竜巻で防御しつつEMP兵器で沈黙させる。考えたようだが、こっちにEMPは効かない。俺は左肩のロケットランチャーをパージし、機銃を撃ちながら走り始める。白いタイル状の装甲が剥がれていく。奴は再び回転を始め周囲に竜巻が発生した。

 突風にさらされるが無視して斜めから体当りをかます。45tのぶちかましは効いたようで、奴は白い装甲の破片をまき散らしながら台車ごと海へ転落した。橋上での戦闘だったが、橋は壊れずに持ちこたえてくれた。

 俺達は0番エリアへと入ることができた。

 そこは誰もいない静かな空間だった。


 金森、ネーゼ様、リオネの3人は徒歩で橋を渡って来る。俺は一旦ゼクローザスから降りた。

「この先どうしますか?サポート用の電子装備は使えないのでしょう。皆さんは撤退されてはいかがですか?」

「そうね。それも選択肢の一つだと思うけど様子がおかしいの」

 ネーゼ様が空を見上げ指をさす。

「ほら。さっきまでは晴れた青空だったわ。今は何か禍々しい光に覆われてドーム状になっているわ」

 確かに、今気付いたが、ここ0番エリアを中心にこのベイエリア全体が光のドームに覆われている。ネーゼ様が禍々しいと称した、原色のいくつもの色が交じり合った毒々しい色合いのドームだ。

「これは……何でしょう。わかりません。こんな現象が起きるなんて理解不能です」

 金森は目を見開いている。

「そりゃ例の『パラダイス・エンジン・システム』に関係してるんじゃないの?生命を燃料とするなら、この現象との関連性はあると思う」

 リオネの言葉にネーゼ様が頷く。

「そうね。そしてここは既に異世界となってしまったようです。『パラダイス・エンジン・システム』が、その可動範囲を広げたと考えて良いと思います。恐らくあの光のドームから外へ出ることはできません」

「私達は閉じ込められたのですか」

 金森の声は震えている。

「金森さん。だからと言って俺たちのやる事は変わらない。そうだろ」

「はい、そうです。『パラダイス・エンジン・システム』の破壊。それさえ為せればこの怪現象も収まると思います」

 金森も腹をくくったようだ。

「ネーゼ様は皆の防御をお願いします。俺の後からついてきてください」

「分かったわ」


 周辺には何もいなかった。カンパニーのサイボーグは先ほどのタイプTの放ったEMPを避けていたのだろうか。動くものは何も見えない。


 しばらく進むと少し先に妙な物体が現れた。鏡で作った多面体人形とでもいうべきスタイルだが人と比較してもかなり大きい。全高3mほど。空の色を反射して虹色にきらめいている。

「アレはタイプMだそうよ」

 資料には目を通している。勿論記憶している。ヤバい相手に出くわしてしまった。物理系の武装を失った後で最悪の敵と遭遇した。

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