act.4 待ち伏せ vs.D
「金森は情報の収集、リオネは情報伝達、ネーゼ様は車の防御をお願いします」
「分りましたハーゲン様」
「仕方ないわね」
「ここで我慢してあげる」
まあ、防御はネーゼ様に任せれば大丈夫だろう。ここ地球でも霊力は変わらずに使用できるようだ。
その時周囲に大音響が鳴り響く。異界電力ベイエリアと本州をつなぐ橋が爆破され崩壊した音だ。これでここは孤立したって訳だ。
今、俺達は5番エリアの一角、8番エリアに近い場所へと来ていた。資料によれば此処は人口密度が低く建物も少ないエリアだという。事実、広い埋め立て地は雑草が生い茂っていて建物はまばらだ。人が少ないという事は虐殺の対象が少ないわけだ。高得点を狙うには対象が少ない、ゲームにおいても過疎地となるハズ。
「ハーゲンさん。あなたは先ほど3体のサイボーグを破壊しました。現在は3000ポイントの高額対象となっています。お気を付けください」
なるほど。反逆者を高得点にする事でゲームを盛り上げようって魂胆だな。
俺達はゆっくりと0番エリアにつながる橋へと向かう。その脇にある4階建てのビルの陰からのそりと何かが顔を出す。黄色い色から大型の重機、クレーン車かと思ったが違う。それはサイボーグ、いや、巨大なロボットだった。
「ハーゲンさん。大型です。接近して来ます。タイプD、タイプDです!」
金森が報告してくるがもう見えている。恐竜、そう、Tレックスのような姿をしていた。体高は6m強、頭から尻尾までは13m以上ありそうだ。黄色い鱗状の装甲が目立つ。
先手必勝、右腕に抱えていた120㎜から徹甲弾を放つ。装弾筒を分離して銛のような弾芯が命中するのだが、鱗状の装甲を剥がしただけでダメージは与えられない。二発目三発目と発射するも鱗を剥がすだけだった。戦車の装甲を一撃で貫通する運動エネルギー弾を弾くとは厄介な装甲だ。タイプD、Tレックスはそのまま突進してきた。腰の部分からミサイルを発射した。6発だ。そのミサイルは空中で分離し小型の弾体をばら撒く。クラスター爆弾だ。俺は両手に抱えていた砲を投げ捨て大剣と盾を構え、そのまま4WD車を庇う。数百発だろうか、小さい小型爆弾が周囲で炸裂した。対人用で威力が少ない兵装の様でダメージは無い。しかし、動きが止まった俺に奴は体当りをかましてきた。
俺は凄まじい衝撃で弾き飛ばされる。背後のビルを押しつぶす格好で倒れてしまった。倒れた俺に飛び掛かって来るTレックス。俺は大剣を突き出し口の中に突っ込む。口腔内を貫いたかと思いきや大剣は噛み砕かれてしまった。盾でやつの頬をぶん殴り後退せる。4WD車はうまくバックして距離を取っていた。
俺は立ち上がりTレックスを観察する。奴の黄色い鱗は何重かに重なっているが剥がれるとピンクの装甲が現れてくるようだ。注意すべきはあの顎と歯である。
俺は120㎜砲を拾い構えた。再び突進してくる奴の首の根本部分、ピンク色の部分を狙い射撃する。今度は深く装甲をえぐった。しかし、致命傷は与えられない。
何という強力な装甲だろうか。宇宙軍用のビーム兵器でないと打ち抜けないかもしれない。そのまま突っ込んでくる奴の口に120㎜砲を突っ込むがこれも噛み砕かれてしまう。奴はさらに接近し俺に噛みつこうとする。盾と右手でそれを防ぐのだがかなりのパワーがあり押されてしまう。俺の左肩に噛みつこうとした瞬間チャンスが訪れた。左肩に装備したロケットランチャーの射線上に大口を開けたのだ。
すかさずロケット弾を発射する。弾は見事に奴の口の中へ入り炸裂した。ふらつきながら倒れるTレックス。首の根本にある装甲の破損部分にも一発ロケット弾を撃ち込む。弾は命中し奴の首は根元からもげ落ちた。先ほど放棄した76.2㎜速射砲はTレックスに踏まれて破壊されていた。
「勝った勝ったあ~」
無邪気に喜んでいるのはネーゼ様である。
「大剣と滑腔砲を砕かれた。何て歯と顎だ」
「そうね。あんた。剣無しで戦えるの?」
見事に冷静なのはリオネだ。
「何とかするさ」
この先どれだけ戦闘があるかわからない。武器は多い方がいい。両手に持っていた砲を失ったのは確かに痛手だ。それにあからさまな待ち伏せだった事も気になる。アレはこのゲームに参加しているのではなく、俺達を潰すためだけに行動していたのは間違いなかった。
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