第34話運動音痴

 次の時間も体育だった。

「ゲエエ!いくら体育祭が近いからって二時間ぶっ続けで体育はないわ!」

 しずくは運動が大嫌いなのでげんなりした。

 準備運動をしていると,くすくす笑い声が聞こえてきた。

どうやら自分が笑われているらしいとしずくは気づいた。

皆と同じ動きをしているつもりなのに,

体が思うように動かずに奇妙なポーズを取っていたのだ。

「あいつふざけてる。まじめにやってない。」

とひそひそ言う声が聞こえたが,しずくは我慢した。

(フン。仕方ないだろ。こっちは骨に問題があるんだから)

と内心ふてくされていたが表情には何の感情も表さなかった。

今朝のようにうろたえたりしたら,余計悪化するに違いないからだ。

 小学校のころ,体力を測るテストを行ったときに

腹筋が一回もできずに

「先生,山野さんがふざけています。」

といわれた苦い思い出がしずくの心によみがえってきた。

 運動音痴ではない人間には,自分が楽々できることが

どうしてもできない人間も存在するということが到底理解できないのだった。

 この時間は他の組と合流して騎馬戦の練習を行った。

大河は一際大きな歓声を上げながら,競技に熱中していた。

声替わりした男子とは思えないようなキンキン声が響くのを聞いてしずくはイライラした。

しずくは昔から甲高い声が苦手だったのだ。

 この日は強い日差しがガンガン照りつけていた。

しずくは日焼けできない体質で,日光を浴びると

火ぶくれができる体質だったので,予め体育教師の許可を得て

長袖長ズボンのジャージ姿で頭にスカーフをまきつけて顔を隠していた。

 まだしずくのチームが出番ではないので,校庭の隅で

他のチームが戦う様子を眺めていた。

すると同じく出番待ちをしていた例の二人組みが

「なにあれ。ほっかむりなんかしてキモーい。」

としずくの方を見ながらゲラゲラ笑って挑発してきた。

(うるせえな。生まれつき肌が弱いんだからしょうがねえだろ)

としずくは腹の中で毒づいていた。

 あまりしつこいのでギロッとにらみつけると

「やだあ!こっち見たよ!キモい!」

と言ってきゃあきゃあと騒いでいる。

(石でこいつらの頭をかち割ってやれたらどんなにすっきりするだろう)

としずくは思った。気を紛らわそうと,練習試合をしているほうに目をやると,

 ほっそりとした美しい少年が馬上で奮戦していたので

しずくは思わずどきりとした。

小麦色の肌に真っ黒なさらさらの髪を風になびかせ,

真剣なまなざしで相手の額に巻かれた鉢巻を取ろうとしている。

(うちの学校にあんなかっこいい男の子がいたっけ。)

 しかしよく見るとその美少年を担いでいるのは皆女子だった。

「なんだ。美少年だと思ったら女だったのか。つまんない。

 それにしてもどこかで見た顔だなあ」

 しずくはしばらく考え込んでいた。その間にその少年のようにさわやかな少女は

勇猛果敢に突き進んでどんどん鉢巻を取っていった。

そのとき「小宮さあん,がんばってえ!」

と女子の中から黄色い声が上がった。

「ええッ!あの人が小宮さん!?」

としずくはびっくりした。

胸下までのストレートのロングヘアをばっさりとショートカットに

したので雰囲気が変わって別人のように見えたのだった。

「びっくりした。全然わからなかった。好みのタイプだと 思ったら残念だわ」

 しずくはなんだかがっかりしたのだった。

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