第25話
ろうか側の壁には窓があり,しずくは長いこと
誰かが通りかかることを期待して外を見張っていた。
「早く教室に戻って授業に出なくちゃならないのに。」
しずくはあせっていた。ふと自分が左手の中指の
つめをかんでいることに気づき,しずくは慌てて指を口から離した。
三歳の頃から,いらいらしていると無意識のうちにつめをかんでしまう
くせがあった。ぎざぎざになった爪を見るたびに自己嫌悪に陥り,
今度こそやめようと思うのだが,少しのびてくると我慢できなかった。
今回はいつもより深爪しすぎてひりひりした。
いくら目をこらしても依然として薄暗いろうかには人の通る気配はなかった。
しかもこの窓は普通の教室の窓と違って開け閉めすることができないので
窓から脱出することはできないのだった。
窓というよりもガラスの壁だとしずくは思った。
(このガラス板外せないかな。)
しずくは窓をゆさぶってみたが,びくともしなかった。
叩き割ってやろうかという考えがしずくの頭を一瞬よぎったが,
恐ろしくなってやめにした。多分手がガラスで切れて血まみれになるだろう。
指がちぎれてしまうかもしれない。
それに教師たちや母親からどんなに責められることだろうと思うと
しずくはぞっとした。母親に責められるのだけは耐えられなかった。
「あーあ,ついてない。なんだってこんな目にあうんだろ。
これから先,生きていてもいいことなんか一つもないだろうな」
しずくは近くにあるいすに腰を下ろした。その瞬間,
腹がグーと鳴った。そういえば,昨日の晩から何も口にしていない。
そのことを思い出した途端,強い空腹を感じた。
「お弁当は教室の中にあるかばんの中に入っているんだった。
せめてかばんをもってくればよかった。」
しばらくして、
「あっ,大変だ!」としずくは突然叫んだ。
今日の帰りに本屋に立ち寄って参考書を買うつもりで,
三千円ほど入った財布がかばんの中に入っていることを思い出して
しずくは慌てたのだ。自分がここに閉じ込められている間に
教室に置きっぱなしのかばんから誰かが財布を盗んでしまうかもしれないと
思うといてもたってもいられなくなったしずくは
「だれかあ!だれかあ!助けてー!」
途端に腹の底から大声をふりしぼって叫んでいた。
しかしそのとき空に雷鳴がとどろき,声を掻き消してしまったのだった。
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