第23話威嚇
学校に着いたしずくはいつも以上に
疲れた足取りでよたよたと教室に向かった。
すると廊下で横山と鈴木の二人組みに,いつだったか
しずくが一人でいることをなじった男が加わって立ち話していた。
横山と鈴木は男子にしなだれかかって甘えたような声を出していた。
きゃあきゃあと嬌声を上げながら,時折横目でこちらをうかがう。
(感じ悪い。きっと陰でわたしの悪口を言ってるんだろ。
困ったな。あの二人のいるまん前を通らないと教室に入れない。)
しずくはびくびくしながら二人の脇をすり抜けて行った。
通り過ぎて二メートルほど過ぎた辺りで,背後から
「キンモー!」
という横山の大声が響いた。
よく通るキンキン声だったので,他の組の教室から
奇声を聞きつけた生徒が何事かと出てきたくらいだった。
その後で三人がどっと笑い声を上げた。
しずくはついびくっとして肩をふるわせた。
しずくはキモいという言葉は何より嫌いだった。
人格を否定する言葉を面と向かって浴びせられた経験が
これまでの人生でなかったわけではなかったが,
これほど苦手な言葉もなかった。
(不愉快だ!自習室に行こう)
しずくは英語の授業の予習をすることに決め,自習室に向かった。
この学校には自習室があり,机が並んでいた。
隣の席の生徒との雑談で気が散らないための配慮からか,
一つ一つの机は板で仕切られていた。左右と前方に壁があり,
机に向かっている生徒は小部屋を与えられているようなものだった。
勉学に集中できそうなものだが,場所取り争いのけんかが頻発したし,
出入りの生徒が立てる物音で気が散る生徒も結構いたのが実情であった。
始業前で時間が早いせいか,自習室には誰もいなかった。
しずくは隅っこの席を迷わず選んで腰をおろした。
(ここなら誰にも見られない。一人になりたい。)
としずくは思った。壁に囲まれていると,不思議と安心できた。
さっきの出来事でしずくは動揺していた。
(どうして何も言い返せないんだろう。
でも向こうには男子がついているから怖いな)
としずくはくやしさに歯軋りした。
(お父さんは出て行っちゃうし,お母さんはあんなに冷たいし。)
英語の教科書を開いてみたが,意識を集中させようとあせったが
活字が意味をもった文章ではなく,もやもやした暗号のようにみえた。
(ああ,教室に戻りたくないなあ。)
としずくは自分でも気づかないうちに独り言を言った。
ときどき頭の中で考えていることを無意識のうちに声に出して
ぶつぶつとつぶやいてしまう癖があるのだった。
しずくは憂鬱な面持ちでノートを閉じ,脇に押しやった。
昨日の晩眠れなかったせいか疲労でぐったりしていた。
考え事をすることにもおっくうでしずくは机につっぷして目を閉じた。
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