優子、どうして君は


放課後。



神一郎、奈々、優子の三人で下校していた。



「神一郎はさ、何処に引っ越したの?」



「駅前のマンションだよ?」



「へ~、あの最近建てられたやつ? 確か奈々もあそこじゃなかった?」



途端に奈々が慌てる。


まあ転校生が小学校の頃の友人で、マンションまで同じとなったらそれは驚くだろう。


理由を知っている神一郎でもこれはやり過ぎだと思う。


「まさか家まで同じところってなんなのよ、下手したらそれストーカーよ?」


-ストーカーはないだろう、ちょっと傷ついた-


神一郎がうな垂れるように傷ついていると、奈々が苦笑した。


すると優子が笑いながら言った。



「今度さ、神一郎君の家お邪魔していい?」



「あ、別にいいけど?」


あ、良くない。 椎菜がいることをすっかり忘れていた。


が、しかし



「ありがとっ、じゃあ私こっちだから、ばいば~い」



そういうと優子は手を振りながらパタパタと駆けて行った。


優子のことだから本気で来るつもりなのだろう、1日しか接していないがそれくらいはわかるような気がした。



「じゃあ俺たちも帰ろっか?」


神一郎の得意なことはあきらめるべきタイミングを見誤らないところである。



「う、うん」



奈々は今が夕方でよかったと思った。


夕日で赤面しているのを隠せる。


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 「案外部屋近いのね?」



駅前一等地のマンション最上階。


1フロアを六つに区切ってある。


他の階は平均20弱なのだが。



「近いっていうか同じフロアだったんだね」



知っていたのだが。



「私ん家ここなんだ。じゃね」


意外にもあっさりとした別れの言葉を言い、奈々は部屋へと入って行った。


神一郎は軽くてを振り、奈々がドアを閉めるのを待ってから歩きはじめた。


隣の部屋へ。


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 神一郎が部屋の方へ歩いていくとドアの前に優子が立っていた。



「やっほー、来ちゃったっ」



舌をぺろっと出して、てへっと笑う優子。


どうして優子がここにいるのか、言うまでもない。



「本当に来るなんて朝倉さんも大胆だね」



「優子って呼んでくれていいよ?」


神一郎の言葉に対して何もないかのように答える優子。


神一郎が玄関のドアを開けると優子も一緒に入って来ようとする。


「優子、君をここに入れることは出来ない。 いくら奈々の友達だとしても。 わかるよね」


「今日の今日何かをしようってわけじゃないよ。 神一郎君に訊きたいことがあって来たの。 多分、神一郎君たちも気になってること」


神一郎の制止に対して素直に足を止める優子。


しかし優子も引き下がる気では無いようだ。


「…「たち」ってことは、もうわかってるんだね。 わかった。 ただし怪しい点があったらすぐに帰ってもらうし、最悪… 斬るよ」


「わかってる、まあそうならないようにちゃんと話そ?」


優子の真剣な目を見た神一郎はゆうこを家に招き入れる。


椎菜にバレたらそれはそれで殺されそうだが。



「神一郎君は騎士ランクどのくらい?」


優子は靴を脱ぎながら早速話しかけて来る。



「あ、いきなりそういう話?  …まあいいけど」



やはりそうだった。


朝倉優子は中国側の騎士。


二人はテーブルにつく。


「お茶は出さないよ? 今はそれどころじゃ無いしね」


「ちぇー、せっかく神一郎君とお茶ができると思ったのに」


優子は茶化そうとするが、神一郎が単刀直入にきく。



「何で中国は奈々を狙ってるんだ? 確かに魔力を持ってるのは不思議だけど騎士って訳でもないし、とくに危険があるわけでもないだろ?」



「実は私もその事をききに来たの。 私たち中国軍は、奈々を保護しようとしてるの。 少なくとも私はそう聞いてる… 」


お互いに同じ疑問を持っていた。 なぜ相手が奈々を狙っているのか、そして何故、自分たちは奈々を保護しようとしているのか。


ただ、



中国の保護。その言葉にはどういう意味があるのか、神一郎には嫌な予感しかしなかった。



「保護って言っても軍に捕まって身体中いじくり回されて調べられるって意味だろ、それに仲のいい優子に捕まるんだ。奈々は傷つくに決まってる」


神一郎は素直に現実を突きつけた。



「私だって奈々を軍に引き渡したくなんてないっ、だけど上の命令なんだから仕方ないでしょ? 」



「何で優子が中国に協力なんかしてるんだよっ… 優子はどっからどう見ても日本人だろ?」



神一郎は言ってしまってからハッとしたが、優子はなんともなしに応えた。



「私孤児なの。 それで中国の機関で育てられてたんだけど、育ててくれたお爺さんが亡くなってからは軍の訓練生にされていつの間に騎士になってて… 今回の任務に当たる前は自分の魔法で誰かを幸せにできるって思ってたんだけど、このまま奈々を引き渡したら奈々を幸せにするどころか不幸にしちゃうんじゃないかって… そう考えてたらどうしたらいいかわからなくなっちゃって… ねえ、神一郎君、私はどうしたらいいんだろうね…」



優子は虚ろな目でそう話した。



「優子が今回の任務を遂行しようとしてることは悪いことだとは思わないし、任務だから仕方ないと思う。 でも、俺は騎士として、何より奈々の友達として、奈々にとって嫌なことからは護るよ。 だから絶対に中国には渡さない。 優子や優子の上司が奈々を捕まえようとするならそれを阻止するよ」



神一郎は正直な言葉を一つ一つ紡いでいった。



「……そっか。 何か奈々が羨ましいなぁ…  神一郎君みたいな友達がいて…」


「何か勘違いしてないか?  俺にとって優子はもう友達なんだ。 だから優子と敵対したいとは思わない。 優子も奈々にとって何が大事か考えなくてもわかるだろ。」


優子がやろうとしてることに対しての神一郎の正直な気持ち。



「わかってる。 でも神一郎君だって私と同じ立場になったら悩まない? 任務と私情、どちらが大切か。」


優子は泣きそうになりながらも少し責めるような口調で言う。


「俺は…」


「いいよ。 私は私のやり方でやる。」



神一郎の言葉を遮ってそう言うと、部屋を出ていった。


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Reverse World 高橋結衣 @kokoro774

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