先輩と模擬戦です。

「全く何なのよ~あの女。 神一郎勝手に連れてくし。せっかく昼は楽しく食べようと思ってたのに…」



あの女の人が神一郎君を連れて行ってからの奈々はずっとこんな感じだ。

こういうときの奈々は何を言っても無駄なので、優子は特になだめたりはしていない。



「ならさ、私の神一郎を連れてかないで~って言えばよかったじゃん」



正直こういう性格の奈々がさっきあの女の人を止めなかったのが不思議なくらいだ。


普段なら、ちょっと勝手なことしないでくれる? くらい言ってもおかしくない。



ともあれ正直優子も少しがっかりしている。



「もう少し話してみたかったなぁ…」



「あの女と?」



「違うよ! 神一郎君と!」



あの女と神一郎君はただの友達とかそんな感じの関係じゃない気がした。

やはり思った通りかもしれない。


それにせっかくゆっくり話せると思って食堂来たのに…


惜しいことしたな…


そういえば家どこなんだろ…



「ごちそうさま、早いとこ教室戻りましょ」



「そうだね、そっかぁ、うん!」


ふたりは食堂を後にした。



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 神一郎と椎菜は体育館裏に来ていた。



「さて…神一郎はS(シングルエス)だったかな。 私と組んでミッションを遂行するんだ。 お手並み拝見といこうじゃないか」



そういうと椎菜が長い髪をまとめていた日本の簪(かんざし)を外した。 あれが椎菜の魔力結晶なのか。


よく観ると簪の先端に水晶のような物が黄色く光っている。 かなり明るい。 やはりオリジナルか。



騎士は戦闘の時はもちろん武器を使うのだが、その武器が特徴的である。


騎士が使う武器は大きく分けて2種類。


一つ目は近接型。 刀や槍、ハンマーなど形は様々だが戦法は攻撃の届く距離まで近づいて攻撃。 だいたいその1パターンだ。

たとえ攻撃に魔力を乗せて威力を上げても、魔力消費が少ないので長期戦に有利だ。



そしてもう一つが遠距離型。 このタイプは銃や杖の形が多い。

戦法は自分の魔力を弾にして的を打ち抜く、それだけ。

遠距離で戦えるが、自分の魔力を直接使う為に、魔力消費が大きいことからに長期戦には向かない。



この二つに共通する部分は、収納形態とリンクである。


騎士の使用する武器は戦闘形態と収納形態の2形態があり、普段は収納形態にして持ち歩いている。

収納形態は椎菜のように簪状のものや、神一郎のようにペンなど様々な形がある。


そしてリンクとは騎士の戦闘において最も大切な物の一つである。 騎士の使用する武器には魔力結晶が付いている。 むしろ魔力結晶が武器の核である。


さらに魔力結晶には様々なタイプがある。例えば黄色の魔力結晶なら雷系。赤なら炎系など。


高位の騎士になると天然の魔力結晶(オリジナル)を使うが、並みの騎士は使用できる魔力が限られる人工の魔力結晶(アーティフィシャル)を使用する。


そして騎士が武器を使用する時は騎士の魔力と魔力結晶の持つ魔力とでリンクしている。 そのリンクが強ければ強いほど強い魔力を発揮できる。



「こんなところで闘ったら人に見られますし体育館の一つくらいは吹っ飛びますよ?」



神一郎はそういいながらも胸のポケットからボールペンを取り出した。 キャップには黒く光る魔力結晶が付いてる。 これが神一郎の武器「ツキカゲ」の収納形態だ。



「大丈夫だ。 魔力結界を張っておいたからな。 普通の人間は近づけないし建物の修復も出来る。 じゃあ始めよう…」



はぁ…と神一郎は溜息をついた。 よし。



「「リンク!」」



二人の声が重なった。



椎菜の持っていた簪が光を増す。


すると日本の簪がひらひらと舞い上がり二丁の銃の様な物となって椎菜の両手に握られた。


神一郎は目を閉じる。


すると手の中のペンが光る。



そして一振りの剣となって神一郎に握られた。



「隊長はロングレンジですか。 その武器の名前は…?」



「隊長じゃなくて椎菜でいい。 武器(これ)はアグニだ。 基本的にはロングレンジだな。 神一郎のは?」



「ツキカゲです。基本クロスレンジです」



ロングレンジは遠距離、クロスレンジは近距離のことである。



「どこからでも掛かって来い。神一郎」



「行きます!」



ツキカゲを右斜め下に構えて椎菜との距離を詰める。



「甘いな。 シュート!」



椎菜の両手に握られたアグニから神一郎にむかって二発の魔法弾が放たれる。



「っ…これくらいならダメージになりませんっ!」



神一郎は左手にシールドを張り魔力弾をガード、距離を詰めて切り掛かる。



「これでどうですかっ!」


しかし


「ふんっ、なかなか速いが…」


今度は銃で防がれる。


斬りかかっては防がれ、また距離を取られる。


距離を取られてはまた射撃を食らう。


この繰り返しが続けば、魔力の燃費が良いクロスレンジタイプの神一郎に分がある。



「神一郎、遠慮しなくていい。こんなもんじゃ無いんだろう?」



距離をとった椎菜に対して神一郎はすかさず距離を詰める。



「なら本気でいきますっ、ツキカゲ、いくよ」



神一郎の言葉に応えるかのようにツキカゲが光る。



「速いな…ほとんど見えないよ」



そう言いながらも神一郎の攻撃を次々に防いでいく椎菜。


椎菜はツキカゲを両銃で防いだあと高くジャンプして魔法陣を展開した。


おそらく大きい一撃を撃って来るのだろう。



「すごいジャンプですね。 陸士なのに!」



「陸士だって魔力を使えばこのくらいのジャンプは楽勝だよ。 それにしても神一郎は速いな。 そのスピードは大したものだよ」 



陸士は空士と違って基本的に陸上移動魔法を鍛える為に飛行魔法は使えない。


ジャンプをしてもせいぜい5メートルが限界だろう。椎菜はどれだけ訓練したのだろう。

軽々と20メートルはジャンプしている。 これじゃ普通に空戦じゃないか。


神一郎も飛行魔法を使用して椎菜とほぼ同じ高さまで飛翔、魔法陣展開。



「ツキカゲ、モードロングレンジ」



ツキカゲが変形して全長1.8メートルの戦杖となる。


クロスレンジが基本の武器であるため、ロングレンジでの攻撃の威力には期待できないが、近距離に突っ込んで行くよりはいいだろう。



「いくぞツキカゲ!」



神一郎は魔法詠唱を始め、



「神一郎、覚悟しろよ。シュート!」



「勝たせてもらいます!シュート!」



詠唱完了後二人が集束砲を放つ。


二人が放った集束砲が互いにぶつかり爆発。


衝撃で体育館が崩れる。


神一郎はそのタイミングで放つのをやめて、爆煙の先にいる椎菜目掛けて距離を詰める。



「モードクロスレンジ」



ツキカゲが本来の形状、剣となる。


爆煙の先に影が見えた。



「椎菜さん、覚悟です!」



爆煙の中の椎菜の影に切り掛かる。



シュッ…



有り得なかった。


神一郎は騎士団の中でも反応速度は一位二位を争うレベルだった。 少なくともクロスレンジにおいては。



気づいた時には遅かった。



首筋に冷たい感覚が走る。



銃口が向けられている。



「相手がロングレンジだからってなめないほうがいい。 高位の騎士になると分身出来るしな。」



神一郎が切り掛かったのは椎菜の分身だったのだ。



「「リンクカット!」」



二人とも武器を待機状態に戻し魔力の解放を終了した。


椎菜は慣れた手つきで簪で髪をまとめると、魔力結界を解く作業に入る。 魔力結界は周囲の人間に対し、なぜだかわからないがその結界には近づきたくないと言う気持ちを抱かせることで人払いを行う魔法である。



 結界を解くと爆発で半壊した体育館が何ともなかったかの様に修復されていた。



「戻るか」



「そうですね…」


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-悔しい-


この気持ちで胸がいっぱいの神一郎。


速さだけは騎士団でずば抜けていると言う自信があった。


実際速さと剣技を評価され副隊長を務めている。


だが、椎菜との模擬戦では剣技は防がれ、速さも通用しなかった。


これでは持ち味が全く行かせていない上に椎菜に勝る部分もない。


-このままではダメだ…-

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