先輩が登場です。
「初めまして、かな。 私はアトランティス軍騎士団二番隊隊長、 中嶋椎菜一等陸尉だ。 よろしく」
やっぱり、という感じの神一郎。 彼女がジジィの紹介にあった中嶋椎菜一等陸尉だ。
「よろしくお願いします。 流石SS(ダブルエス)ともなると魔力の放出抑えるの上手なんですね」
神一郎や椎菜の様な魔力を持った人間は、常に魔力を放出し続けている。
神一郎達の様な高ランクの騎士ともなると魔力の放出が大きくなるため、魔力の放出を抑えないと他軍の騎士に魔力を察知されて居場所を突き止められたりするのだ。
「そんなことはないさ。 藤崎一等空尉だって見付けるのに苦労するぐらい抑えてるじゃないか」
椎菜が微笑む。
褒められるのは嬉しいが、一般人がいる前でその呼び方はやめてほしいと言うと
「あ、あぁ…そうだな、なら普通に呼ばせて貰おう。改めてよろしくな。神一郎」
-この人も下の名前か・・・-
ため息をつきながら神一郎もよろしお願いしますと返した。
「そういえば隊長は何処に住んでいるんですか? なるべく護衛対象に近い方がいいですよね?」
そう。もしものことがあったときに備えて護衛対象の近くにいることは基本中の基本だ。
「何を言ってるんだ? 爺さんから聞いてないのか?」
椎菜は呆れ顔で言う。
-ジジイから? なんか聞いたっけか-
神一郎は考えを巡らせるが全く身に覚えがない。
「いや、俺は護衛対象の住んでるマンションの隣の部屋みたいですけど、隊長の住所は聞いてないので…」
「俺はっておいおい… 私も同じ部屋に決まってるじゃないか」
「いやいやいや!」
-そりゃあないだろ・・・-
「ほ、本気で言ってるんですか…?」
いくら任務のためとはいえ少しきついものがある。
「二人一緒の方が動きやすいだろう? そもそも私は料理が出来ないから一人では暮らせないしな」
椎菜は真顔で言う。
-そういうことか・・・-
「俺が家事担当ですか…?」
「む……私だって洗濯くらいならできるさ、私がやってあげてもいい。 勿論出来ることなら他にもやるぞ?」
-洗濯は洗剤いれてボタン押すだけだからな-
「と、とりあえず今日帰ったら決めましょう。 そういえば昨日一昨日は家にいませんでしたよね?」
神一郎は一昨日に日本に入ったのだが、マンションの部屋に椎菜の姿はなかった。
「ああ。 それはあっちにリミッター解除権の申請をしてきたんだよ。 勿論神一郎の分もな」
あっちというのはリバースワールドのことだ。
リミッターというのは騎士の魔力を制御するために、騎士が使う武器に必ず付いている物である。 高ランクの騎士になると使える魔力の量も増えるために、攻撃による周りの建造物や民間人への被害も大きくなる。
そこで被害を防ぐために武器に組み込まれたのがリミッターである。
高出力、高威力の魔法を使おうとしたときに魔力が一定の強さを超えると、武器が勝手に魔力を抑えるという機能である。
確かにこの機能によって周りへの被害は格段に少なくなるのだが、逆を言えば強力な魔法を使えなくなるということだ。
そこで出てくるのがリミッター解除権だ。
テロリスト討伐等の危険が伴う任務で稀に与えられるもので、一緒に行動しているチームの中で最も高位の騎士の許可が出ると武器のリミッターが解除出来るというものだ。
しかし、リミッター解除による民間人への被害が出た場合に責任を負うのは許可を出した騎士であるため、許可を出す者はめったにいない。
実際、リミッター解除による民間人への被害が出た事件もある。
「許可が下りるほどの任務なんですか?」
神一郎は質問しながらも解っていた。
今回の任務がいかに危険な任務であるかを。
「ああ。 私があたってきた任務の中でもトップレベルの難易度かも知れないな…っと、続きは後にしよう。 カレーが来たぞ」
椎菜が言ったところで奈々達が食事を持ってきた。
「ほら、神一郎のカレー。 っと…この人知り合い?」
奈々が椎菜を見て首を傾げる。
-なんて答えよう…-
-転校してきた当日に知り合いがいたら流石におかしいか・・・-
答えに迷っていると
「私は向こうで神一郎の先輩だったんだよ。 たまたま一緒に転校してきたんだ」
椎菜が言った。
-いや、その答えはないだろう-
そもそも一緒に転校なんてありえない。
どうフォローをいれようか悩んでいると
「あ、そうなんですか? 席ありがとうございます」
と朝倉さんが言って奈々と共に座った。
神一郎の向かいに椎菜、その隣に奈々、そして神一郎の隣に朝倉さんという座り方だ。
非常に気まずい空気だ。
-奈々はなんだか怒ってるし-
-椎菜は朝倉さんを睨んでるし-
するとこの空気を変えようとしたのか朝倉さんが
「神一郎君食べないの? 冷めちゃうよ? はい、あーん…」
自分のスプーンにカレーライスを一口分載せて神一郎の口の前に持ってきた。
-これはあれか? あーんをやるべきなのか?-
これをやってしまったらこの世の終わりを迎えるかもしれない。 それに周りからの視線を感じる。
「いいよ、自分で食べるし」
「そっ…か、そうだね、じゃあ食べちゃお」
朝倉さんも納得してくれたらしい。
なんか、 無言だった。
とにかく無言だった。
10分くらい経っただろうか。
「ごちそうさま。 神一郎、行くぞ」
と椎菜に言われて立ち上がる神一郎。
「りょ、了解です」
「は? どこ行くのよ?」
「どこ行くの?」
と朝倉さんと奈々の声が重なる。
「いや、神一郎に学内を案内してやるだけだが… 何かまずかったか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど…」
「なら、神一郎は借りて行くぞ。勿論授業までには教室に戻らせるから大丈夫だ。では。」
椎菜が言ったところで神一郎も
「じゃあまた…。 …朝倉さんもごめんね」
そうして二人は食堂を後にした。
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