感動の再会?

2025年6月12日


博文館学園高等部一年A組。


「今日からお世話になります。藤崎神一郎です。よろしくお願いします」



俺は少し緊張しながら言った。


静かな教室を見渡す。


自分に向けられる三十人分の視線。


すると。



ガタッ!



その視線が物音のした方へ向くと一人の少女が立っていた。



「し、神一郎!?」



「え?」



つい言葉に出てしまっていた。 いきなり名前を呼ばれたのだから仕方がない。



俺がこの博文館学園に来たのには理由があった。


それは三日前に遡る。

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ここは普段人間という動物が暮らしている世界とは別の世界。「ReverseWorld」と呼ばれている場所。

国や世界地図はほとんど同じだが、一つ違うところがある。


それは本来日本があるはずの位置に伝説の島、「アトランティス」があるところだ。 



ここはアトランティスのとある施設。


そこでは叫び声が響き渡っていた。



「副隊長、もうここは抑えられません、後退しましょう!」



二十歳前後の男が15歳かそのくらいの男に、慌てたように声をかける。



「そうですね…ならこうしましょう。部隊を二つに分け、俺を含むここにいる五人であの犯人のアジトを攻め、主犯を逮捕、拘束します。その他の者は出来るだけ速やかに応援を呼んできてください。いいですか?」


-これではキツイな・・・-



副隊長と呼ばれていた男が言うと残りの男達が返事をして頷いた。



「では、いきますっ」



副隊長の指示で皆が一征に動いた。

障害物を巧みに避けながら副隊長は進んでいく。



「しっかりついて来てくださいねっ!」


-何人着いてこれるか・・・-



副隊長の後に四人着いていく。


四人は副隊長に着いていくだけで精一杯のようにみえる。

副隊長達五人は先に見えるビルを目指しているようだがなかなか進めない。


バシュッ



「くっ…」



一発の十段により、一番後ろを走っていた男が倒れた。



バシュッ、バシュッ



男が倒れたのに続いて前方から銃弾が迫って来た。


副隊長が剣で何発か弾いて高く飛翔したのに続いて残りの四人も着いていこうとするのだが、皆打ち落とされていく。



「残りは俺だけか……しょうがないかな…」


-やっぱりダメか・・・-



副隊長は立ち止まった。



「リンク解除。 対テロリストトレーニングを終了」



副隊長がそういうと剣がボールペンになり、周りの建物が消えてしっかりと整備された平地になった。



「各員回復後、俺までレポートを提出してください」


副隊長が倒れている隊員に声をかけると、皆辛そうに起き上がりながら返事をした。


その時ピピピっと着信音が鳴った。


携帯端末が着信をしらせる。



「はい、もしもし三番隊副隊長の神一郎です」



副隊長こと神一郎が答える。



「今からですか? それなら15分くらいで。 わかりました。では、今から本部に向かいます」


ー面倒臭いけど行くか・・・ー


隊員たちを残し、副隊長こと神一郎はその場を去った。

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アトランティス軍本部の3階にある「アトランティス軍騎士団長室」の前に立つ神一郎。



神一郎はここに呼び出されていた。



-ここに来るのは何度目だろうか-



アトランティス騎士団とはこの世界で唯一警察権を持つ組織、「アトランティス警察」の中のエリート集団である。

アトランティスを護る軍としての機能も備える。


各国各都市に支部があるアトランティス警察に対し、アトランティス騎士団はアトランティス内にしか支部がない。

必要とあらば異世界でも他国へでも行くのだが、そうそう事件が起こるわけがなく、普段は要人警護などを任されることが多いのだ。


そんなアトランティス騎士団三番隊副隊長を神一郎は任されているのである。



「はあ…」



ため息をしてノックする。



「失礼します。 藤崎神一郎です」



「入りたまえ」



中から低い声が聞こえてくる。

神一郎が中に入ると身体の大きい男がデスクに着いていた。


新谷悠斗、アトランティス騎士団長、通称ジジイである。



「待っていたよ。さっき正面玄関に入るのが見えていたからね。そろそろ来る頃だと思っていたよ」



そう言いながら座りなさいと神一郎をソファーに促した。


神一郎は一礼してから座る。



「遅くなってすみません。 それで今日は何の任務でしょうか」



神一郎は任務の度にここに呼び出されるので慣れている。



「そう急かすな。まあ今回も任務を頼むんだがな」

ジジイはそう言うと引き出しから書類を差し出した。



「今回は護衛任務だ。 名前は赤坂奈々。 人間界の日本、東京都にある博文館学園の高等部一年A組に在席だ」



神一郎は不思議に思った。

何故こんな民間人を護衛しなければならないのか。



「何故こんな少女を…?」



神一郎が質問するとジジイはこれまた不思議そうに言った。



「彼女は何故か微量の魔力を持っている。 親がこっち側ということでもない」



そうか、と神一郎は納得する。


こっち側、則ちリバースワールドの人間は魔力を持っている。

神一郎達軍人達は魔力を使って戦闘を行う。

人間界の人間が魔力を持っているなどありえない話だった。



「なるほど。 しかしこんな護衛なんて必要ないのでは? 少なくとも軍なんか動かさなくてもアトランティスの職員に任せればいいのでは?」



神一郎は質問した。


するとジジイは急に深刻な顔をして言った。



「神一郎が質問するのは当然だな。 実は先週から中国軍が動いていてな。 恐らく彼女を狙っているのだろう。 それで日本と同盟を結んでいるアトランティスは中国に対抗するために軍を動かすことにしたんだ。 悪いが3日後から人間界に移ってくれ」



神一郎はまた「はあ」とため息をつく。



「それで、具体的に私はどのように護衛すれば…?」



「君は今いくつだね?」



-は? 何故そんなことを?-


思いながらも神一郎は答える。



「今年で16になります」



ほう、とジジイは微笑み



「実は三日後に博文館に編入出来るように手続きを済ませてある。 君も博文館学園の一年A組の生徒になり、できるだけ近い場所で護衛してくれ。 君の住所も彼女のマンションの隣の部屋ということにしておいた」


-はぁ…-



神一郎はまたため息をつく。


すると、ジジイが言い忘れていたと

「君は確か、小学校は人間界だったね」



そう、神一郎は親の都合で一時期人間界で暮らしていたとデータに残っている。



「彼女も君と同じ小学校出身だよ。確か同じ吹奏楽部じゃなかったか?」



-確かに思い出してみると赤坂奈々という少女がいたような気がしないでもない・・・-

「あ、本当ですね…確かに同じ吹奏楽部だ…」



神一郎は携帯端末からデータを閲覧した。


しかし神一郎は卒業後リバースワールドに移り騎士団に入団したため、彼女とそれ以降の交際はないらしい。



-うまくいくだろうか?-



神一郎が悩んでいるとジジイが微笑みながら



「そんなに悩む必要はない。彼女が覚えていれば護衛しやすいし、覚えてなければ一から信頼関係を築けばいい」


-それもそうだが…-



神一郎は少し考えたあと、



「わかりました。三日後から人間界での任務を開始いたします」



神一郎は立ち上がり敬礼する。


ジジイもそれに応じる。


するとジジイが



「そうだ、実は二週間前からすでに任務に就いてもらっている。 二番隊隊長の中嶋椎菜一等陸尉。歳は17。 騎士ランクはSSだ」



神一郎は内心驚く。


神一郎は一等空尉。 騎士ランクはS。 騎士ランクとは神一郎達のような騎士の強さを表したもの。 騎士団最低ランクはC。

最高ランクはジジイが持っているSSS。


副隊長以上は基本A以上となっている。


神一郎の若さにしてSランクというのはかなりすごいことである。


-まさか17にしてSSとは。 凄すぎる-

「君にとっても中嶋一等陸尉と仕事をするのはいい刺激になるだろう。 では頑張ってくれたまえ」



「了解しました」

 


神一郎はまた敬礼すると団長室をあとにした。


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と言うわけで神一郎は人間界に来たのだが、


-まさか赤坂奈々が神一郎を覚えていたとは-



担任の先生も



「なんだ、知り合いなのか。なら赤坂の隣に座りなさい。朝倉、済まないが一つ後ろの席にずれてくれないか?その後ろも」



とか言って納得している。


-なるほど、奈々の隣の眼鏡をかけた女子は朝倉と言うのか-



なんだかんだで自己紹介を終えた神一郎は、奈々の隣の席に着席して残りのホームルームを聞いた。





ホームルームが終わるとさっそく奈々が話し掛けてきた。



「あんた中学外国じゃなかったっけ、ってかなんでこの学校に入学してんのよ」



神一郎は返答に困った。まさか奈々の護衛任務のためなんて言えるはずがない。



「別に俺がどの学校に入学しようが…」



ここまで言ったところで話が中断された。


いつの間にかクラスの皆が神一郎と奈々の周りに集まって話を聞いている。


特にさっきの朝倉さんは微妙な表情で神一郎達を見ていた。



「ねぇ、神一郎君てさ、奈々と知り合いみたいだけどどこで知り合ったの?」



朝倉さんはいきなり神一郎に質問をしてきた。


いきなり下の名前かよ、と神一郎は突っ込みたくなったが堪えて答える。



「小学校が一緒だったんだよ。それだけ、うん」



朝倉さんはふーんと相槌をうって聞いているが全く納得していない。


そうしていると他の生徒からも質問攻めにされた。



「ねぇ、藤崎って前はどこの学校にいたの?」



-えっと…答えづらい-



「ねぇ、彼女とかいるの?」

「いないよ。一昨日まで外国だったし」

神一郎が答えると奈々がうんうんと頷きながら



「そうそう。神一郎に彼女がいたらびっくりだわ。 小学校の頃なんかものすごい物静かだったもんね」



とか言い出した。



-うわっ、ひどい言い方だな-


と泣きそうになったが、一時間目の授業の担当らしき教師が教室に入って来たところで話が中断された。

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奈々としてはいきなり神一郎が転校して来て複雑な気持ちだ。

小学校の頃吹奏楽団で同じトランペットパートだった。

よくソロパートの取り合いをしていた物だ。


「なんか私より背高くなってるし…」



隣で授業を受けている男子生徒を見る。


少し長い黒髪に黒くて大きい眼。


奈々の視線に気付いたのか神一郎がこっちを向いてきて眼と眼が逢う。


奈々はかぁっと顔が熱くなるのを感じる。


ふと眼を逸らしてしまった。


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「ったく、なにやってるんだか」



神一郎の後ろの席の朝倉優子はため息をつく。


さっきから奈々と神一郎の様子を見ているとため息もつきたくなる。


奈々は奈々でさっきから神一郎君に夢中だし、神一郎君も神一郎君で奈々の方をちらちら見てるし。


そういえば神一郎君はなんでこんな時期に入学してきたんだろう。



いまは春休みが終わったばかりの6月。


退学した生徒がいるわけでもないのにこんな時期に編入試験などやっているのだろうか?


そういえば2週間くらい前に2年生で転校してきた生徒がいた気がする。


しかも2年生も外国から転校してきたって聞いたような。 まあ私も一ヶ月前に転校してきたけど。



「……さん、朝倉さん!」



はいっと言ってから気付いたが、どうやらさっきから教師に呼ばれていたらしい。 なんてことだ。 真面目キャラで売っている私が授業中にぼうっとするとは。


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授業が終わると神一郎達はまた生徒に囲まれてしまった。



「………はぁ」



神一郎はため息をついた。


結局午前中は授業が終わると囲まれ、また授業の繰り返しだったのだ。


すると奈々がいきなり立ち上がって言った。



「あんたどうせお弁当ないんでしょ? 学食行きましょうよ」



「なら私も一緒に行くっ。」



朝倉さんも立ち上がる。



「ゆ、優子も来るの?」



すると朝倉さんがニヤッとして



「なぁに奈々?私がいたら邪魔かな?」



「なっ…  別にそんなんじゃないわよ。 ほら、早く行きましょ、席がなくなるわ」



奈々が行くわよ、と言った感じで促す。



「ほら、神一郎君もいこっ」



いきなり朝倉さんが神一郎の手を掴んで歩きはじめた。



「あっちが食堂だよ。 食堂の位置くらい知らないとこれから不便だしね」



とか言いながら歩き続ける。


-周りからの視線がキツイ-



-時々殺気混じりの視線があたるんだが-



「ほら、あれが食堂っ。建物が別なんだよ?」



なんだか朝倉さんはフレンドリーなようだがそれより、



「あのさ朝倉さん、手…」



「ん?どうかした?」



朝倉さんは首を傾げる。



「そろそろ放してくれないかな~って。 何て言うかハズいし」



あっなるほどといった表情の朝倉さんと急に明るい表情になった奈々。


すると朝倉さんが



「え~、私は別に気にしないけどな~、えいっ」



神一郎のもう片方の手を握った。



「ちょっ、いい加減にやめなさいよっ他の人が見てるわよ!」



殺気混じりの奈々の指摘に、朝倉さんははいはいと言って手を放した。


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「ずいぶんと広いんだな…」



圧巻とはこういう時の為にある言葉なんだと神一郎は感心した。



「神一郎は何食べる?買ってきてあげるから席とっといてよ」



「やっぱり学食と言ったらカレーだろ」



「…そうかな?」


心底納得していないような表情をしながらも奈々は了承し



「まいいや、了解。じゃあ席よろしくね」



バイバイと言って奈々と朝倉さんは券売機の方に歩いていった。




「混んでるな…」



食堂は多数の生徒で混み合っている。


食堂の席は四人一組のテーブルとなっていて、たくさん配置されている。

食堂では各々グループを作っている生徒もいれば、壁際のカウンター席で個人で食事をとっている生徒もいる。


空いているテーブルが無いので困っていると一人で座っている生徒に声をかけられた。



「席をお探しかな?もしよかったら相席でもどうだい? 藤崎神一郎君。…いや、こう呼んだ方がいいかな、藤崎神一郎一等空尉」



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