勇者一行

 たまに不思議に思うことがある。どうして私が勇者の一員になったのかと――



「そろそろかしら?」


 焚き火で温めた鍋のなかには真っ白なスープが入っている。沢山の具材を牛乳やチーズ、小麦粉等で纏めた『シチュー』というものらしい。


「うん、良い感じ」


 甘い香りが食欲を誘う。そろそろ仲間も帰ってくる頃だ。


「おーい」


 噂をすれば、遠くから脳筋の声が聞こえる。相変わらず馬鹿デカい声だ。


「うるせえよ!!」


 クラウスが怒鳴り返す。でも何故か彼の声は嫌ではない。何でだろう?


「ただいま、ネル」


「おかえり、怪我はない?」


「大丈夫、それに私はヒーラーだし」


 腰まで伸びる長い髪を揺らしてにっこり笑うサラ。彼女の笑顔はパーティを明るくする。


「今日の夕飯は?」


「クラウスから聞いた『シチュー』だよ」


「まぁ。クラウスは本当に物知りね」


 この世界の食べ物で、この世界にない料理を教えてくれる。そして、目立つのが嫌いだから、私が考案した料理だと世界中に広めて歩く。何の得もないのに平然としているクラウスは何だか少し憧れる。

 誰だって手柄を独り占めしたいものだ。




「みんな、そろそろ夕飯にしよう」


 まだ喧嘩中のクラウスとゴッツ。それを笑いながら眺めるサラ。いつもの光景だ。


 もしかしたら、私はクラウスに出会わなければこのパーティにはいなかったかもしれない。

 いつまでも一緒にいたい。心の底から思える仲間達に出会えて私は幸せだとよく思う。


「どうかしたネル?」


「なんでもないわ。そこの二人、そろそろ終わりにしてちょうだい」


「「うーい」」




 皿にシチューを注いでパンをアイテムボックスから出す。


「良い匂いだ」


「うまそう」


「ネルの作る料理よ? 不味いわけないわ」


 スプーンですくって口に運ぶと野菜や肉の旨味が甘さと一緒に口一杯広がる。


「懐かしいな」


 クラウスが美味しそうに食べているのを見ると嬉しくなる。


 前に元いた世界に帰りたいか聞いたとき、飼い猫には会いたいけど、それ以外未練はないと言っていた。きっとそれは本心なんだと思う。

 あの時の彼の顔はまだはっきりと覚えている。



「そろそろ一度町に帰らない?」


 突然のサラの一言にみんな頷く。リーダーはクラウスだけど、行く場所を決めるのは殆んどサラだ。


「そうだな、そろそろ色々切れかかってるし」


「俺の盾も修理しないと」


「お前は馬鹿みたいに分厚い胸板があるだろ? それで攻撃を防げ」


「うるせえよ、クラウス」


「喧嘩は辞めろ、飯が不味くなる」


「「スミマセン」」


「ネルがキレたわ」


 怯えるサラの頭を優しく撫でて、残りのシチューを口に運ぶ。気持ち良さそうな顔になるネルは何だか猫みたいだなと思いながら、夕食を食べ続ける。


 近いうちにマイホームに戻らないとな……

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