滞在二日目 魔法使いネル
空になった丼に箸を置いてお茶を飲む。始めて食べたはずなのに何だかホッとする味だった。
「美味しかった?」
「えぇ。ジジの国は美味しいものが多いのね」
「そうだね」
主も家にいるときはよく料理をしていた。あの頃は食べられなかったけど、きっとこんな風にホッとしていたのだろう。
「すみません」
「はい、なんでしょう」
「この料理について聞きたいのですが?」
「何かありましたか?」
店員は少し怪訝そうな顔になる。顔から察するに、何か不手際があったのかという顔だ。大丈夫、なにもないですよ。
「この料理は誰が考えたのですか?」
「ネル様ですが?」
「ネル?」
「勇者一行のネル様です」
なんで勇者一行が日本食を?
主が関わっている……?
「ネルは私も知ってる。補助魔法と攻撃魔法が得意な魔法使いよ」
じゃあ主は魔法使い……?
「じゃあ――」
「でも、彼女は女の子よ? ジジの主は男じゃなかった?」
「女の子?」
主が女の子? いや、そんなはず……
「あの……」
ますます怪訝そうな顔になる店員さん。大丈夫、無視してないですよ。
「すみません、ネルさんがこの料理を?」
「そうです。この王国料理の殆んどは彼女の考案です」
「そうなのですか…… ネル様に会うことは出来ますか?」
「無理です。世界各地を旅していますので…… 拠点が此処というだけですので」
「そうですか……」
店員さんにお礼と会計を済ませ外に出ると、周りの店も混み始めていた。
日本食は相当人気らしい。
「これからどうするの?」
「冒険者ギルドに行って情報収集」
「なら、私も行くわ」
「ありがとう」
冒険者ギルドは、酒場もやっているので込み合っていた。リリも少し不安そうにしている。
「大丈夫だよ」
小さな手を握りながら受付に向かう。幸い受付には人がいなかった。
「すみません」
「冒険者登録ですか?」
「いえ、少し聞きたいのですが……」
主の情報は、全くと言って良いほどなかった。ネルのこともあまり聞くことは出来なかったが、高位の冒険者で勇者の一員だということが分かった。
後、ネルは畑にも詳しくこの王国の畑も彼女のお陰で発展したらしい。
「いつ戻るか分かりませんか?」
「申し訳ありません」
「そうですか……」
まあ、勇者一行は忙しいのだろう。急に押し掛けて会えるわけないか。
「ありがとうございました」
礼を言ってギルドを後にする。
周りからは少し不思議がられたが、あまり気にならないのか誰も話しかけてこなかった。
手掛かりは、勇者一行のネルという少女だけだ。だけど、主が関わっているのは間違いない。何故かそう確信が持てた。
「少し前進かな」
「そうね。もしかしたら旅の途中で会えるかもね」
その可能性が高いなぁと思いながら宿に戻った。
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