滞在二日目 小さな手掛かり

 ミネル王国は朝も賑やかだ。畑を見に行く人、これから冒険に出掛ける人。そんな人達を支える店の人達。みんな生き生きしている。


 昨日積もった雪は朝には溶けていた。今日は少し暖かいようだ。

 王国の外壁をぐるりと一周すると、すぐに体が暖かくなった。夏とは違って、運動には丁度良い季節だ。


「旅人さん、朝から元気ですね」


 これから仕事に行くのか、くわを肩に担いだおじいさんに話しかけられた。


「おはようございます、朝の日課ですので」


「そうかい。朝から勢がでるね」


「これからお仕事ですか?」


「あぁ、そうだよ」


「良ければ見学しても良いですか?」


「かまわんが、面白いことなんて無いよ?」


「ただ、興味があるんです」


 そうかいと、おじいさんは快く了承してくれた。



 この王国は、外壁の中と外に畑がある。ただ、中の畑は、最新の肥料などを使って安定的に作物が育つよう、研究された畑らしい。

 この王国で働く農夫の殆んどは外からの移住者なので、どちらかというと、一から畑を作る方が相に合うらしい。


「おらの畑は、この区画だ」


 おじいさんから紹介された畑は、とても広かった。こんな畑を一人で管理しているとは……


「大変じゃないですか?」


「大変だけど、好きだから苦じゃないよ。それに嬉しいこともある」


「嬉しいこと?」


「沢山実った時さ。自分で作ったものは特に旨いし、美味しいって言われたとき、凄い嬉んだ」


「そうなんですね!」


「おうよ!!」



 おじいさんが畑に鍬を入れる度、サクッと音がなる。土が凍っているかららしい。

 鍬を借りてやってみたが、中々難しかった。


 冬のおもな仕事は、秋に育てた野菜の蔓などを畑に埋めて、綺麗にする。そして雪が積もったら野菜を雪に埋めるらしい。そうすると野菜が甘くなるそうだ。


「お前さん、いつか俺の跡を継がないか?」


「私が?」


「あぁ、まだ危なっかしいが腕は良い。暇になったら俺の所に来な。気長に待っててやるよ」


「有難うございます」


 何だか褒められるのは嬉しいが照れる。


「お疲れさん、今日は助かった」


「いえ、こちらこそ勉強になりました」




 おじいさんと別れて王国に戻る。泥まみれになった体を洗わないと……


「おはよう」


 部屋に戻ると、リリは起きていた。昼が近いから当然か。


「おはようジジ。随分汚れているわね」


「畑仕事を体験してきたからね」


「冬に?」


「うん。次の年のための作業だよ」


「そうなんだ」


「少し待ってね、今泥を落としてくる」


「手伝う?」


「大丈夫だよ」


 風呂場で毛に絡まった土埃を綺麗に流して、折角なので、風呂に入る。

 源泉をそのまま部屋の風呂に引いているので、少し熱いが気持ちいい。


「あぁ……」


 何だか寝てしまいそうだ。


「ジジ、寝たら承知しないわよ」


 扉の外から怒りの声が聞こえる。お姫様はお腹が空いているようだ。


「大丈夫だよ……」


「ならいいけど」


 上がると相変わらず細くなるので、魔法で乾かす。温泉を引いているだけあって、上がっても体が中々冷めない。


「やっと上がったわね」


「ごめん」


「早くご飯食べに行くわよ」


「分かった」




 外は賑わいが朝より増していた。冒険者や旅人の姿が多い。門が開いて外からの人も沢山来たのだろう。


「人が多いわね」


「大丈夫だよ。手を繋ぐ?」


「うん」


 小さな手を握って町を歩き始める。


 王国と言われるだけあって、店の数も多い。食事以外にも、武器や道具屋もかなりある。見慣れない店も結構多い気がする。


「大分料理がどんなものか解ってきたわ」


 飲食店の看板に肉まんやハンバーグ、ステーキと書かれているのを見て、自慢気なリリ。色々食べたからなぁ。


「確かに。じゃあ、今回は食べたことの無いものにしようか」


「賛成!!」


 ぐるりと辺りを見渡すと、知らない料理もそこそこあるが、知っている料理もある。ピザにうどん。蕎麦に寿司に……


「日本食?」


 ピザは別にして、妙に日本食が目に写る。なんか多くない?


「どうしたの?」


「日本食がね……」


「日本食?」


「僕のいた国の料理が多い気がする」


「じゃあ……」


「もしかしたら手掛かりがあるかもしれない」


 胸が高鳴る。もしかしたら会えるかもしれない。


「でも先ずは腹ごしらえだ。それからだね 」


「そうね」


 さすがに朝から動いてばかりだったから、お腹が空いた。


「今日は蕎麦にしよう。温かい物が食べたい」


「分かったわ」



 異世界蕎麦屋のメニューは、ざるそばや丼物など、日本と殆んど同じのようだ。


「ここは天丼とかけそばかな」


「?」


「温かい蕎麦と、揚げた具材をご飯に乗せて甘いたれをかけた料理だよ」


「なにそれ美味しそう!!」


「同じのにする?」


「うん!!」


 知ってはいるが、食べるのは初めてなので楽しみだ。


 料理が出来るまで、これからの話になった。少し不安なのか、リリが心配しているように見えた。


「ねえ、もしジジの主が見つかったら旅は終了?」


「うーん……」


「まだ考えてないわよね、ごめんなさい変なこと聞いて」


 おじいさんに弟子入りして畑仕事も良いかもしれないし、違う選択肢もあるかもしれない。


「リリはどうするの?」


「私?」


「うん。もし良ければ一緒にいない?」


「一緒にって?」


「一緒に旅を続けないかって話」


 主が見つかったから、すぐさよならは何だか嫌だ。主は一緒に旅をしてくれるとは思うけど、リリの気持ちも尊重したい。


「……」


「嫌なら良いんだ」


「嫌じゃないわ‼」


 一瞬静まる店内。すぐにまた騒がしくなるが、少し注目されてしまった。リリには少し悪いことをしたかな……


「さっきの話、僕の旅の目的は達成するけど、リリの目的は達成してないから、最後まで付き合うよ」


「そう……」


「主が見つかって、さよならはしないよ。仲間が一人増えるだけさ」


「そっか」


 少し安心したようにおもえた。やっぱり先のことをもう少し考えた方が良いのかなと思う。




「お待たせしました」


 天丼とかけそばが良い匂いと共に届いた。天ぷらは野菜中心だが、ちゃんと魚も入っていた。


「食べようか」


「そうね」


 まずはピーマンの天ぷらから。サクサクの衣に少し苦いピーマンがたれと合わさって美味しい。リリは苦手みたいだけど……

 カボチャはホクホクとして甘く、魚はフワフワサクサクで味もすごく良い。旨味にタレが拍車をかけ、ご飯も止まらない。タレの染み込んだ薄茶色のご飯は、もうそれだけで食べれるほど旨い。

 かけそばは、少し甘めの出汁が蕎麦と絡み合う。ネギの辛みがまた食欲を倍増させる。あっという間に間食した。


「ごちそう様でした」


 何だかとっても懐かしい気持ちになった。リリも気に入ったようなのでよかった。主に出会ったら、もっと美味しいものを作ってもらおう。

 三人の旅もきっと楽しいだろう。


 そう言えば、ネギ食べたけど大丈夫かな……

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