ミネル王国
滞在一日目 心と面積の大きい国
ミネル王国は、世界中の食を支える国だ。その為、どこの国からも攻撃を受けないし、逆もない。だけど、魔族はこれに当てはまらないことが多い。表世界を征服しようとする場合、まずここが狙われる。
その為、近隣の町や国との外交が盛んで、武力を持たないが世界一守りの固い王国と言われている。
商業も盛んで、この国で揃わない物は無いとも言われている。
「ようこそいらっしゃいました」
門番は笑顔で僕達を出迎えた。他の国は余り良い印象がないので、自然と此方も笑顔になる。
「二名、お願いします」
「はい、銅貨四枚になります」
「安っ⁉」
確かに安すぎる。リリも驚く位だから相当安いのだろう。
「どうかされました?」
「いえ……」
人が苦手なリリは、子供みたいに後ろからひょっこりと顔を出している。
「大丈夫だよ」
小刻みに小さく震える手を握る。冷たくなった手を温めるのは大変そうだ。
「手続きは以上になります」
「ありがとうございます」
礼を言って門を潜ると、外は暗くなっていた。早急に宿を探さないと……
オススメはこの先を真っ直ぐ行ったところにある旅館らしい。
「ジジ、手……」
「あぁ、ごめん」
握ったままだった手を離す。
「ありがとう」
「うん?」
お礼を言われるとは思っていなかったので、変な声が出た。
「なんでもないわ」
「そう?」
ちょっと不機嫌になったリリは、もう一度手を伸ばす。
「寒いからもう少し繋いでいたい」
「わかった」
リリの手をとって町を歩く。リリの少し赤い顔を心配しながらオススメされた旅館を目指すが、夜なのに街は活気で溢れていて、昼間と変わらないようだ。
「寒くない?」
「大丈夫よ」
出店は少ないけど、開いてる店が多いのは何だかいいな。
リリは相変わらず下を向いている。不機嫌の理由を聞くと、更に不機嫌になることがあるので最近は聞かないようにしているけど、少し寂しい気がする。
「あれじゃないかしら」
リリの指差す方に大きな建物があった。確かに屋根には『宿』と書いた看板が掛かっている。
「間違いないね」
見るからに旅館だけど、建物が大きい。こんなに大きな旅館は初めて見た。
「これならきっと空いてるね」
「そうね」
旅館は一階が酒場、二階から上が宿になっていた。酒場は、宿泊客以外にも開放しているのですごい繁盛している。
「いらっしゃいませ」
「しばらく滞在したいのですが?」
「ご宿泊ですね、ではこちらにお名前の記入をお願いいたします」
促されるまま台帳に名前を書く。
「では、こちらが部屋の鍵になります」
「ありがとうございます」
鍵を受け取って、部屋に向かう。手続き中に酒場が空くかと思ったけど、更に混んできたので部屋で食べることにした。受付に夕食を頼むと届けてくれるとのことだったので、オススメの定食を二人前頼んで部屋に向かうことにした。
部屋は大きな窓とベットが二つ、備え付けの家具が置いてあるシンプルな部屋だ。
「良い部屋だね」
「うん」
早速ベットにダイブするリリは、そのまましばらく顔を埋めながらごろごろしていた。
久しぶりのベットは熟睡出来そうだ。
今日の夕食は米と野菜の味噌汁、漬け物とハンバーグという豪華な夕食になった。パンが多いこの世界で米を食べるのは、ちょっとした贅沢だ。
「美味しい!!」
「本当だ」
割ると中から溢れ出す肉汁のハンバーグ。沢山の野菜が入った味噌汁と漬物。これだけ食べて銀貨一枚とは安い。
「この国はなんでも安いわね」
「それだけ豊かなんだよきっと」
この国は活気がある。一部の人だけではなく、この国全体がだ。
きっと仕事が多いのも一つだろう。
「明日は町に行くの?」
「とりあえずギルドにね」
「その後は?」
「町を散策するつもりだよ」
「じゃあ、お昼は外ね」
「そうだね。色々食べ歩きしよう」
「うん」
食事が終わり、せっかくなので風呂に入ることにした。
この国は、手前が町や関係施設、奥は畑やその関係施設のため、建物が少ない。そして四階から上の階には、奥側に風呂を備え付けてあり、星を見ながらのんびりと浸かることが出来る。
「覗いたら怒るから」
「覗かないよ」
「それはそれで……」
「なんか言ったかい?」
「なんでもない!!」
怒りながら風呂に行くリリを見送る。自分は覗いて細くなった私を笑うくせに……
上がったら冷たいものを飲みたくなるだろうから、少し買い物に行こう。
幸いこの街は夜も眠らない。冷たいエールとつまみを買いに外に出た。
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