ホットワインと旅の話

 辺りが薄暗くなり始める頃、少しずつ気温が下がり始めた。ひんやりとした風が体の体温を容赦なく奪う。


「リリ、そろそろ起きて」


「う……ん」


 目を擦りながら体を起こすが、リリはボーッとしていた。相当熟睡してたらしい。


「おはよう」


「うん……」


「夕飯一緒に作れそう?」


「無理……」


「そっか」


 それなら仕方ない。リリを毛布で巻いて抱き抱え、切り株まで運ぶ。


「寒くない?」


「大丈夫……」


「もう少し寝てて良いよ」


「うん……」


 疲れてたのか、またすぐに寝息をたて始める。

 切り株の上にちょこんと座って、本当に人形みたいだ。



 夕飯は軽めに野菜のスープにした。適当に作ったけど、まあまあ美味しくできた。


「ごちそうさま」


「お粗末様。暖かくなった?」


「うん」



 夜になるとまた一段と気温が下がるけど、そのお陰で空には満点の星空が広がる。

 温めていたホットワインをカップに注いでリリに渡す。寒い日はこれが一番だ。


「ありがとう」


 乾杯して口に含むと、ブドウの酸味と香りが口一杯に広がり、アルコールのお陰で体も暖かくなる。


「明日には町に着くかしら?」


「だぶん着くと思うよ」


「どんな食べ物があるのかしら?」


「僕も知らないんだけど、食材の宝庫らしいよ」


「美味しい料理あるかしら?」


「あるよきっと」


「楽しみね」


「そうだね」


「料理も沢山教えてね?」


「了解」


「早く着かないかしら?」


「楽しみ?」


「もちろん」


 冒険は危険が付き物だけど、知らないことを知るのはわくわくする。世界中の知らない料理を知ることが僕達には一番重要なことだ。

 主のこともだけど……


「さてと、僕はそろそろ寝るね」


「私はもう少し星を見てから寝るわ」


「じゃあ、お休み」


「お休み、ジジ」


 また次の町でも主の情報は空振りに終わるだろう。転生してしばらく経つけど一向に何の手がかりもない。もしかしたらいないのかもしれないと思うこともある。

 でも、もしかしたら……




 朝は相変わらず寒い。リリに使っていた毛布をかけて外に出ると、雪が積もっていた。


「寒いわけだ」


 静かに積もった雪は、辺り一面真っ白に隠してる。風魔法で積もった雪を掃くと、粉雪の下から色鮮やかな落葉が顔を見せる。

 触ってみるけど、湿気っているので火種には使えないな……

 昨日と同じになるけど仕方がない。テーブルの上に昨日作ったスープを準備する。


「おはよう、ジジ」


「おはよう、リリ」


 二枚の毛布にしっかりとくるまり、顔だけをテントから出すリリは、カタツムリみたいだ。

 寒さのお陰か、今日はしっかり目が覚めているようだ。


「朝ご飯できてるよ」


「外に出たくない」


「じゃあ、中で食べよう」


「うん」



 朝食が終わる頃には雲の隙間から光が差し込んできた。


「晴れそうだね」


「本当だわ」


「そろそろ仕度をしないと」


「手伝うわ」


「ありがとう、じゃあテントをお願い」


「うん」


 魔力を注ぐとテントがスクロールに変わる。


「いつみても便利だね」


「そうね」


 かさばらないから持ち運びには便利だけど、お値段は便利じゃない……

 たまにリリは貴族なのではと思うことがあるが、本人が何か隠してるみたいだから聞かないでいる。


「どうかした?」


「なんでもないよ」


「そう」


 まあ、いつか話してくれるだろう。




 少し歩くと、畑が見えてきた。周りに雪が積もっているのに畑からは白い煙が上がっている。


「畑が燃えてるの?」


「あれはきっと発酵だよ」


「発酵?」


「ここら辺の畑は良いものが採れるよきっと」


「それが発酵と関係あるの?」


「畑の栄養が満点の証拠だからね」


 行商の人から聞いた話をそのまま伝えたけど、大丈夫だろうか……

 聞いてるときは何のことか分からなかったけど、これのことを言っていたのだろう。

 行商人曰く生きている畑で、なんでも土の中はとても暖かいらしい。

 そんな何処までも続く畑を見ながら歩くと、大きな門が見えてきた。


「あ、やっと見えてきた」


「やっと着いたね」


 だけど近付くにつれて、門から長い行列が見え始める。いつものことだけど、少しうんざりする。

 最後尾に並んだものの、門を潜るのは夕方近くになるだろう。


「早く入りたいわ」


「そうだね」


 結局、思った通り夕方頃王国に入った。

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