滞在五日目 ラーメン

 夜が明けると空に太陽が登り、町の人たちは朝から雪かきに追われていた。

 手伝おうと声をかけたけど、やんわりと断られたので今は部屋で待機することになった。


「さっそく身に付けてくれたんだ」


 リリの首と指には、昨日作ったネックレスと指輪が光っていた。それぞれ回復と麻痺や毒などの軽度な状態異常無効のルーンを刻んである。


「似合ってる?」


「とっても似合ってるよ」


「「……」」


 それからしばらく無言になった。聞いたのは僕だけど、何だか無償に恥ずかしくなった。



 太陽が真ん中位まで登った頃、雪かきが終わっていつもの町に戻り始めた。

 窓から外を見ると、店の開店準備を始める人達が忙しそうに動いている。


「商業ギルド行くけど、一緒に行く?」


「美味しい物食べたい!!」


「了解」


 薪ストーブの火が消えたことを確認して、部屋を後にする。

 外には沢山の雪山ができ、子供達が雪遊びを楽しんでいた。寒さなんて知らないみたいだ。

 顔が真っ赤な子供も沢山いる。


「楽しそうだね」


「そうね」


 寒さに負けず無邪気に遊ぶ子供達に微笑みながら、商業ギルドに向かった。昨日作った装飾品や薬、紙などを換金して、時間も丁度良いのでお昼にすることにした。

 商業ギルドの中には飲食店も数多くある。ギルド加入者は割引が効くのでお得だ。


「今日は何を食べようかな」


「温かいものを食べたいわ」


「温かいもの……」


「ラーメンなんてどうかしら?」


「良いね!」



 数ある店の中から、『ラーメン専門店』と大きな看板を掲げた店に入ることにした。ラーメン文化が出来たのは、ここ何年かの話らしい。噂では、旅人が広めたらしい。


「いらっしゃいませ」


 店に入ると、店員を囲むようにテーブルと椅子が配置されていた。


「お好きな席にどうぞ」


 少し緊張しなが座り、メニューを見る。元いた世界の知識があるお陰で何となく見ただけで分かるが、リリには未知の食べ物らしくメニューとにらめっこしている。


「すみません、オススメって何ですか?」


「醤油がオススメですよ」


 メニューにある『あっさり醤油』が目につく。横にオススメと書いてあるし、よっぽど自信があるのだろう。


「ねぇジジ、なんでメニューに調味料が書いてあるの?」


 調味料? あぁ、味のことか。


「それは味の種類だよ。店にもよるけど、基本ラーメンは醤油や味噌、塩が代表にあげられるんだ。僕の世界ではもっと発展して、色んな味があるんだけどね」


「そうなんだ」


「ここはオススメの醤油にしたら?」


「そうする」


「すいません、『あっさり醤油』二つ」


「あいよ」


 威勢の良い掛け声と共に店員さんが調理を始めた。



「ねぇリリ、そろそろ次の町に行こうと思うけど、何かリクエストある?」


「暖かいところがいいわ」


「それならミネル王国かな」


 豊かな自然と豊富な食べ物が有名な国だ。ここからも近いし、良いかもしれない。


「どんなところ?」


「僕も聞いた話だけど、自然豊かで暖かい所みたいだよ」


「そうなんだ。ならそこにしましょうよ」


 あっという間に次の行先が決まった。近いけど三~四日かかるから旅の準備をしないと。

 また暫くは野宿になりそうなので、食糧も買わないとな。



「お待ちどう」


 目の前に白い湯気がたつ丼が置かれた。中には麺と沢山の具、そして透き通ったスープが良い匂いを醸し出す。


「「いただきます」」


 まずはスープから。熱々を口に運ぶと、あっさりとした中から醤油と様々な出汁の旨味が口に広がる。箸で麺を持ち上げ啜ると、スープと絡んで何とも言えない美味しさが口に広がる。

 ある程度食べ進めた所で、チャーシュータイムだ。

 良い感じにスープを吸ってひたひたのチャーシューを口に運ぶ。噛むと熱々のスープと柔らかな肉の甘い脂が混ざりあって、口の中が幸せになる。そのまま更に麺を食べると、もう何とも言えない。あっという間に丼が空になった。


「ごちそうさまでした」


 箸を丼に置いてリリを見ると、此方も食べ終わる頃だった。幸せそうなリリの顔を見ながら、食べ終わるのを静かに待った。



 店を出る頃には、辺りが暗くなり始めていた。


「ねぇ、あれ!!」


 リリが指差す方には、小さなかまくらの中に火が灯り、薄暗い夜道を照らしていた。


「綺麗……」


「本当だね」


 小さなかまくらは、均等に並んで何処までも続いていた。


「少し遠回りで帰ろうか」


「そうね」


 昼の雰囲気とは違った静かな町をのんびり歩いて旅館に戻った。

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