滞在三日目 狩り
ウサギが真っ白な草原を駆け回る。寒さを堪えつつ獲物が来るのをじっと待つが、寒さに負けそうだ。
今日は雪がちらつく曇り空で、リリは寒いのが苦手なため今日は部屋で留守番だ。
今日の獲物はコカトリス。今時期は繁殖期で増えるため、討伐クエストが出る位だ。
まあ、それ以外にも狩るつもりではあるが……
そうこうしている内に、木の近くに大きな巨体が現れた。
目が合うと、けたたましい咆哮を放ちながら突進してきた。右に飛んで避けながら剣を抜き、炎を纏うイメージをする。剣に渦状の炎が現れたのを確認して、コカトリス目掛けて剣を思いっきり横に振る。
羽を上手く使い旋回してきたコカトリスの首元を綺麗に剣がなぞると確かな手応えが手に伝わった。
コカトリスは頭と胴体が分離してバランスを崩し、体が地面を滑る。頭が宙を舞って真っ白な雪の上に落ちると、ピクリとも動かなくなった。
「お見事ですね」
「有難うございます、ジンさん」
後ろで見ていたジンさんが手を叩く。
成り行きで一緒に狩りをすることになったジンさんは、狩の名人と呼ばれる人だ。町に出回っている肉の半分くらいは彼が仕留めているらしい。
動かなくなったコカトリスを手早くパーツ毎に解体する。始めは上手く出来なかったが、三体目ともなると、大分慣れてきた。
「先程から気になっていたのですが、そんなに綺麗に解体してどうするのです?」
「売る分と、後は食材です」
目玉や爪は状態が良ければ高値がつく。肉は売っても食べても良しだ。
「なるほど。しかし食材とは…… 料理をされるのですか?」
「えぇ、今晩はから揚げにしようかと」
「良いですねぇ。私は料理がからっきしなので……」
「良ければ後でお持ちしましょうか?」
「本当ですか!!」
約束を交わしてジンさんと別れる。今日のノルマは終わったらしい。
「さて、こっちもクエストは完了してるし、下ごしらえでもするか……」
アイテムボックスからテーブルと調理器具を出す。
ボールに水魔法で綺麗に洗ってぶつ切りにしたコカトリスのモモ肉と醤油、調味料を入れてよく混ぜる。
「後は待つだけだな」
アイテムボックスに入れると時間経過がないので味が染みない。なんか良い方法ないかな……
「遅かったわね」
部屋に戻る頃には、もう夜になりかけていた。
「今晩はから揚げにしたよ」
「やった‼」
ベットで寝ていたリリは起き上がると、ストーブの上にフライパンを置いて油を注ぎ始めた。
最近どうやら料理に目覚めたらしい。
下ごしらえしたものに小麦粉と片栗粉をまぶす。
「油はどう?」
「良い感じよ」
まぶし終えたものを油へ投入する。
「今みたいに油に入れてみて」
「分かったわ」
ボールを渡して残りを油に入れてもらう。
「色が付き始めたら、転がして」
コクりと頷き、肉を返す。良いきつね色に仕上がっている。
「さて、そろそろ一回あげようか」
「出来上がりじゃないの?」
「出来上がりでも良いけど、更に高温の油にもう一度揚げた方が美味しいんだよ」
「そうなんだ」
さっきよりも油の温度を高くして、もう一度投入する。
「油が跳ねるから気を付けて」
「大丈夫」
何回か転がして、油から引き上げる。
「うん、良い感じ」
皿に山盛りになったから揚げは、綺麗に仕上がっている。
「熱いから気を付けてね」
「分かったわ」
出来立てのから揚げを口に入れると、サックリ衣の中から熱々ジューシーな肉が現れた。
中は柔らかく出来ていて、初めてにしては上出来だ。
「美味しい」
「上手くいって良かった」
「今度、味付けも教えて」
「勿論」
今日の料理教室は大成功で幕を閉じた。
旅館から少し歩くと、住宅街がある。旅行者は余り近づかないらしい。
ジンさんの家は奥まった所にあった。
「ごめんください」
扉をノックすると、女性が出迎えてくれた。
「はい、どちら様?」
「ジンさんいらっしゃいますか?」
「あぁ、貴方がジジさん?」
「えぇ」
快く迎えたくれた女性の後について行くと、出来上がったジンさんがいた。
「お父さん、お酒弱いのに毎晩飲むんです」
「ほっとけ。それよりも……」
ジンさんの前にから揚げを置く。
「本当に料理するんだな」
なんか口調変わってるな……
「どうぞ」
「では、遠慮なく」
ジンさんはから揚げを口に入れて、直ぐにエールを流し込む。
「こりゃ上手い。熱々でさくさくで……」
喋りながら食べては飲んでを繰り返している。
「気に入ってもらえたようで」
「こんなに旨いから揚げを食べたのは始めてだ」
「それは良かった良かった」
「コトネ、ジジさんにもエールを」
コトネさんからジョッキを貰い、乾杯をする。
「旅の話でも聞かせてくれや」
「勿論」
その後三人で朝まで飲み明かした。コトネさんもから揚げを気に入ったみたいなので、作り方を教えたらさっそく作って、更に酒が進んだ。
翌朝、朝帰りをリリに咎められた……
そんなに怒らなくても良いのに。
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