滞在二日目 のんびりと

 朝方、町には少しずつ音が増える。

 冒険者の足音や店の準備の音。もう少ししたら鳥もさえずるだろう。

 目を覚ますと、いつの間にかリリがベットに潜り込んでいた。


 リリは相変わらず幸せそうに寝息をたてている。


『ジジは好きな人とかはいるの?』


 あの質問を思い出すと、少し胸が苦しくなる。

 いつかリリも好きな人が出来て、私のもとを離れて行くだろう。そのとき私は笑顔で送り出すことが出来るのか……

 旅を共にする間に、私はリリの事を好きになってしまったようだ。


 誰にもリリを渡したくない。


 でもそれが自分のわがままだっていうことは分かっている。自分はリリの事をなにも知らない。知りたい気持ちはあるけど、今の関係が壊れるような気がする。だから自分の気持ちは胸に閉まっておこうと思った。


 そんなことは知らんと気持ち良さそうに寝るリリを見ると、何故だか笑みが溢れる。

 あんまり考えると、変に意識するし、この事を考えるのはやめよう。



 手を薪ストーブの方にかざしながら、中にくべた薪に火が付くイメージをする。暫くするとパチパチと音がして、木が燃える匂いが漂う。

 近くに燃えやすい物がないことを確認して部屋を出た。

 一階では、朝早くから冒険に向かう人達が忙しなく行き来している。

 それを横目で見ながら外に出と、辺りにうっすら靄がかかっていた。


「寒っ……」


 吐く息が白い。今日の寒さは一番かもしれない。


「さてと……」


 軽く背伸びをして走る。二足歩行も大分慣れた。

 町を二周ほど走ってから、剣を振る。そしてまた走る。朝練をやめる頃には、ちらほらと店が開き始めてきた。


 リリは今日、きっと昼ぐらいに起きるだろう。寝起きのリリが外を歩くのは無理だろうから、何か簡単なものでもつくるかな。



「いらっしゃい、干し肉はどうだい?」


「今日は冒険に行かないので、間に合っています」


 まず、肉屋に寄ってみた。牛や豚、鶏もいる。知らない肉も結構あるな。


「結構色々種類があるなぁ……ん?」


 値札にコカトリスと書いてあった。百グラム銅貨五枚。意外と安いな。

 ステーキ……は昨日食べたし、スープも食べた。うーん、メンチカツ……、いや、あれにしよう!


「すいません、コカトリスを二百グラム下さい」


「お客さん、旅人だろ? 二百グラムは多いんじゃ……」


「大丈夫です」


「そうかい。なら少し待ってて」


 おじさんは手際よく肉を分けると、紙に包んでくれた。


「まいどあり」


 料金を渡し、肉を受けとる。


 肉屋を後にして、今度はパン屋へ向かう。


 鈴のついた戸を開けると、音と共にパンの香ばしい香りに包まれた。


「いらっしゃいませ」


 開店と同時に入ったため、焼きたてのパンが沢山並んでいた。


「えーと、クロワッサンとバターロールと……」


「ありがとうございました!」


 いつの間にか紙袋一杯に買っていた。まあ、保存が効くし、大丈夫だろう。


 その後も少し町を散策してから部屋に戻ると、リリはまだ寝ていた。リリを見ていると眠くなる。


 でも、その前に朝食を作らないと。アイテムボックスから、調理の手袋を探す。手の温度が上がらず、汚れないマジックアイテム。普段は余り使わないが、これから作るものには必要だ。


 まず、火と風の混合魔法でパンを乾燥させ、粗めに砕く。次にコカトリスの肉を風魔法でミンチにしてボールに入れる。そこに卵と砕いたパン、調味料を適当に入れてよくこねる。粘りが出てきたら準備よし。

 薪ストーブの上に油を引いたフライパンを置いて温める。その間に作った種を楕円形に整形し、真ん中を窪めてフライパンへ投入。暫く焼いたらひっくり返してもう少し焼き、仕上げに昨日夕飯を食べたお店で分けてもらったソースを上からかける。

 ジューという音とソースの焦げる匂いが食欲を誘う。

 出来たものを皿に移して、朝食の準備は完了っと。



 調理器具をまとめてアイテムボックスに入れる。後で洗わないとなぁと考えながら、リリを見ると、まだ夢の中にいた。


「朝だよリリ。起きて」


 体を揺する。だけど唸るだけでなかなか起きない。

 さて、どうしようかな……

 別に急ぐ用事はない。クエストは受けようかなと思うけど、まだ懐に余裕はあるし……

 とりあえず作った料理をアイテムボックスにしまう。時間が経過しないのは便利だ。


 今日は町を歩くのを諦めた。まだ昼前だし、二度寝するか。二度寝ほど幸せなことはない。ベットに入ると、リリが寝ているので暖かいままだった。入るとすぐに眠気に誘われたので、身を任せた。

 起きたら夕飯の時間かな……

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