私の気持ち

 私はあの時、なぜジジに好きな人がいるのかを聞いたのか。自分でもわからない。

 私は他人が恐い。自分勝手でわがままで……



 私の両親は、私の人生を1から10まで全て決めていた。誰と結婚し、子供は何人つくるか。彼らからしたら、私は政治の道具だった。

 それが嫌で私は家を出た。魔法が使えたので冒険者ギルドに登録して、直ぐにパーティーを組んだ。

 だけど、ここもでも私の自由はなかった。


 初めて組んだパーティーは、金等級の冒険者。面倒見もよく、周りから慕われていた。だけど裏の顔はただの変態だった。森に入るなりすぐに体を求めてきた。あの顔を思い出すと今でも吐き気がする。

 私は怖くなって逃げた。冒険者ギルドに駆け込み事の顛末をすべて話した。だけど全く相手にされなかった。それどころか、その場にいた人達から非難の言葉と視線にさらされた。


『彼がそんな事するわけがない』


『彼が可愛そう』


 私が何を言っても信じてもらえなかった。


 当然のように町中にも私が彼を悪役に仕立てようとしている噂が広まり、町を追い出された。


 次の町では、前の失敗を踏まえ、女性だけのパーティーに入った。始めはうまくいっていたが、私が他のパーティーの男達から注目を受け始めた頃、嫌がらせが始まった。

 結局結末は前と同じ。悪い噂が広まって、町を追い出された。


 結局、家を出ても何も変わらない。何処に行っても私はひとりぼっち。


 それから私は一人でクエストを受けることにした。時にはパーティーに誘われることもあったが断った。


 私の噂が広まり始めたら別の町へ。だけどたまに寂しくもなった。でも、今までの事を思いだし乗り越えた。


 男はみんな二言目には私の体を求める。女は私の人気に腹をたてる。

 私はなりたくてこんな姿をしている訳じゃない。

 勝手に私を祭り上げて落とす。みんな勝手だ。


 私は自分の容姿が昔から大嫌いだ。真っ赤な腰まで伸びる髪。背は小さく、いつも子供みたい。

 こんな自分の何処がいいのか、本当に疑問だ。



 ある時、私は変わった獣人に出会った。別の町に行く途中、いつものように男達に絡まれていた時のことだ。


『次の町まで一緒にどう?』


『一人? まだ子供なのに』


『君可愛いね』


 凄く気持ちが悪い。何となくこの先の結末がわかる。食事に誘い薬を盛る。前にやられた手口だ。だけど私には薬の耐性が少しあるのであの時は助かった……


『君たち、やめないか』


 突然表れた獣人は、私の手を引いて後ろへ誘導する。当然男達は怒り、剣を抜いて襲いかかったり魔法を唱え始める。

 だけど獣人の方が一足速かった。剣を抜くとその勢いのまま相手の剣を弾き、剣先を詠唱中の男の喉元に向けた。


 あっという間の出来事だった。


『私は君たちを簡単に殺せる。だけど大人しく帰るなら追わない』


 獣人が笑う。だけど殺気は増した。


 男達は一瞬で真っ青になり、走って逃げていった。だけど助けられた私は余り嬉しくなかった。


『大丈夫かい?』


『ええ、危ない所をありがとうございました』


 冒険者は見返りを求める。それは正しいことだ。この世界は強さと金が優劣を決める。


『町まで送ろうか?』


 ほらきた。この後宿まで送っていくよと行って、居場所を突き止める。定番の文句だ。


『大丈夫です』


 当然断る。そのまま後ろにそっと手を回し、杖を強く握る。彼の剣は速いが、抵抗しないで犯されるのは嫌だ。


『そうか。じゃあ私はこれで』


 獣人は私に背を向けると、何もなかったように何処かへ歩いていった。

 私は暫く彼の歩いて行った方を呆然と見ていた。


 何も要求してこない?



 彼の姿が見えなくなってから、私は町に戻った。宿に真っ直ぐ向かい、そのままベットにダイブした。念のため回りを気にしながら帰ってきたが、つけられた様子はなかった。扉に鍵をして、私は微睡みに身を預けた。


 目を覚ますと、外は真っ暗だった。まだ怠い体を無理矢理起こし、一階の酒場に向かった。酒場は相変わらず酔っぱらいが騒いでいる。何がそんなに楽しいのか私にはわからない。


 パンとスープを受付で注文して端の席に座ると、さっそく男が寄ってきた。

 毎日のように色々な男達が寄ってくる。

 女達は、私に一瞥の目を向ける。


『ここの宿に泊まってるの?』


『一人?』


 気持ちが悪い。いい加減にしてほしい。


『彼女、困ってますよ?』


 だけど今回は違った。またあの獣人が私の前に立った。


『なんだお前』


『獣はすっこんでろ』


 男達は口々に罵倒する。だけど獣人は笑いながら聞き流している。


 一通り男達がしゃべり終わると、獣人はパチンと指を鳴らした。すると先程まで息巻いていた男達が一斉に倒れた。


 一瞬、何が起こったか誰も分からなかった。うるさかった酒場が一瞬で静まりかえる程だ。


『威力は弱めたはずなんだけど……』


 獣人は、頭をかきながら言った。どうやら満足いってないみたいだ。


『魔法?』


 私は無意識のうちに聞いていた。


『うん。この世界は凄いね。魔法って便利だ』


 魔法って便利? そもそも彼は今詠唱した?


『何か不思議そうな顔をしているね?』


『魔法を使ったの?』


『そうだよ? 君も使うじゃないか』


『詠唱は? 貴方してないじゃない!!』


『詠唱? 魔法って詠唱がいるの?』


 言葉がでなかった。彼の言っていることが本当なら、大事件だ。


 この話は瞬く間に町中に広まった。だけど酔っ払いの出鱈目だと誰も相手にしなかった。



 彼は不思議な獣人だった。あれから何処にいても男達に私が絡まれると決まって助けてくれた。そしてそれが解決すると、また何事もなかったかのように何処かへ帰っていく。


 いつしか私は彼に興味が湧いていた。彼を見ていると、何か大切な物が見つかる。そんな気がした。


 あるとき、私は獣人に尋ねた。


『どうして私の事を助けてくれるの?』


『何だかほっとけなくて……』


 理由はそれだけだと彼は言った。


『何か見返りを求めないの?』


『そんなつもりは無いんだけど…… じゃあ、一つ教えてほしい』


『何を?』


 私のスリーサイズかしら?

 まあ、少なくても良いことではないだろう。


『この世界のことを聞きたい』


 また私は彼に唖然とした。


 彼は自分が異世界から来たと言った。主を探すために転生したらしい。普通なら気にしないような常識も沢山聞かれた。彼の事を沢山知れた。嘘かもしれないという考えは、何故かなかった。

 私はいつしか彼の事を信じていた。彼と行動を共にするくらい仲良くもなっていた。彼なら信じても良いと思えるまでに。



『そろそろ別の町へ行こうと考えてる』


 あるときジジは私に言った。


『そう、なら私もついていこうかしら』


『良かった。君がいると頼りになる』


 ジジは始めから私が行く思っていたようだ。

 まあ、彼は私の中では初めて信頼できる人だから良いけど。



 あれから私は彼と旅をしている。

 私はきっと彼の事が好き何だと思う。だけど、今の関係が壊れたら、と思うととても恐い。

 だから私は少し後悔している。シジにあの質問をしたことを。

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