リンデルの町

滞在一日目

 通行料を払い門を潜ると、寒さに負けない活気に出迎えられた。


 リンデルの町は、標高が高い山がいくつもあるため、年中寒い町らしい。今はまだ初冬なので山頂以外雪はないが、風は充分冷たい。この間行商人に聞いた話だが、寒さを味方につけた温かい料理が最高の町だとも聞いたので、とても楽しみだ。


「宿に行く前に、何か温かいもの食べない?」


「賛成!!」


 結構色々な飲食店があるが、負けじと露店の数も多い。さて、なにを食べよう。色々な露店があって迷うな。魚介系のスープにホットワイン、あれはラーメンかな?


「ジジ、あれは何?」


 リリの指差す方には中華まんの出店があった。丁度蒸し上がったのか、綺麗に並んだ真っ白な中華まんから白い湯気が経っていた。


「あれは中華まんだね。中身は――餡と肉だね」


 看板には、火傷注意の文と共に、饅頭の絵が書いてある。


「中華まん?」


「簡単に言うと、もちもちの皮の中に具が包まれている料理だよ」


「へぇー……」


「物は試しだ。すみません、餡まんと肉まん一つ下さい」


「あいよ、二つ合わせて銅貨四枚だよ」


 お代と引き換えに中華まんを受け取り、餡の方をリリに渡した。


「熱いから気をつけて」


 リリは不思議な顔をしながらおそるおそるかぶりついた。だけどどうやら中身まで到達出来なかったようだ。


「ジジ、これには具が入ってないわ」


「もう二、三口食べてごらん」


 言われるまま口を動かすと、リリの顔が急にご満悦になった。


「美味しいかい?」


 頷きながらリリはどんどん食べ進めている。どうやら気に入ったようだ。


「こっちも食べてみるかい?」


 肉の方も半分に割って渡した。割ると中から溢れんばかりの肉汁が出てきたので、結構期待出来る。

 冷めないうちにともう半分の方を口に運ぶと、一瞬で口一杯に旨味が広がった。熱々もちもちの皮と肉汁たっぷりの具がいい感じに混ざり会う。

 これにはリリもご満悦のようだ。


「ジジ、もう一つ食べたい」


 あっという間に完食したようで、おかわりを要求してきた。


「夕飯が入らなくなるよ?」


「餡と肉を買って、半分個しましょ?」


 リリにねだられると、なぜか断れない。


「わかった。少しまってて」


 急ぎ店に引き返した。

 かなり気に入ったようだし、今度作ってみるとしよう。


 店に戻り追加で中華まんを買うと、店の人が焼売をサービスしてくれた。


「そういえば、この具の肉は何ですか?」


「これは、豚とコカトリスの合挽きだよ」


「コカトリス!?」


 コカトリスと言えば、相手を石化させる力を持った魔物だ。食べられるなんて聞いたことがない。


「お客さん、コカトリスは初めてかい?」


「初めてです。まさか食べれるとは……」


「コカトリスは、目玉だけ気を付ければ問題ないんだよ。肉は脂がのっていて、とっても美味なんだ」


 確かにあの肉汁は凄かった。リリも気に入っていたし、今度色々料理してみようと思う。リリの喜ぶ顔が目に浮かぶ。


「どうやらコカトリスに相当はまったみたいだね! ここら辺の宿は、コカトリスの肉を使った料理をだす宿も多いよ」


 ほほう。


「オススメの宿はありますか?」


「この先にある大きな旅館がオススメかな。ここら辺では一番古いけど、料理も温泉も人気の宿なんだ」


「有難うございます。行ってみることにします」




「遅い‼」


「ごめん、少し話してた」


 中華まんと焼売をリリに渡しながら旅館のことを話した。

 焼売も気に入ったようで、あっという間に完食した。


「そこの旅館にするの?」


「空いていたらね」


 二人で中華まんを食べながら少し歩くと、お屋敷が見えてきた。


「ここが噂の旅館みたいね」


 旅館には見えないけど、確かに入口に暖簾がかかっていた。


「空いているか確認してくるね」


 食べ掛けの中華まんをリリに預け旅館に入ると、とても豪華な内装に出迎えられた。


「いらっしゃいませ」


「今日泊まりたいのですが、部屋は空いていますか?」


「空いていますよ。一名様でよろしいですか?」


「外に連れが一人いるので、二名でお願いします」


「失礼しました、ではお部屋の方準備させていただきます」


 リリに向かって手招きすると、笑顔で走ってきた。

 リリの手に、中華まんの姿はなかった。


 受付を済ませてリリと部屋に向かった。

 鍵を開けて部屋に入ると、暖かな空気とシンプルな内装に出迎えられた。薪ストーブを中心に木の家具が何とも言えない味を出している。


「あったかい」


「そうだね」


 部屋に入るなり、二人で薪ストーブの前に座った。

 それから暫く、その場から動けなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る