1-2 新監督!?
「え、ええええ!?」
チーム全員が目を剥いて声を上げる。
「まさか女性監督だなんて……」
誰が監督でもよいと言ったばかりの横山もさすがに驚きを隠せないようだ。てっきり婚約者か何かと踏んでいた俺たちは、完全に不意を突かれてしまった。
「そ、地域リーグでも珍しいよね」
選手たちを驚かせたのが嬉しいのか、社長はうきうき顔だ。
「柊レイって、どこかで聞いたような……」
俺は腕を組んで頭をひねる。この胸のつっかえる感覚、あまり好きなものではない。
「だろだろ? 何せ柊監督は横浜の中堅高校女子サッカー部をたった3年で全国大会準優勝までのし上げた実績があるからね。その後も3年連続で全国出場を続けてるんだから、これ以上の逸材は滅多にいないよ」
すかさず俺の独り言を拾った社長は得意げにまくしたてた。
そう言えばだいぶ前にテレビの特集でやっていたな。全国大会初出場の女子サッカー部がいきなり準優勝を獲得したと。聞き覚えがある名前だと思ったら、その時の監督だったか。
「皆様の期待に沿えるよう、全力を尽くします」
そしてまたしても丁寧にあいさつする監督。その麗しい姿に選手たちも戸惑いを交えながら、拍手で迎え入れるしかなかった。
だが俺はじっと腕を組んだまま新参の柊監督を睨みつけていた。
いくら実績があろうと、女子と男子は全然違う。同列で語られるのは虫唾が走る。
「じゃあ早速練習に移ろうか。と、その前に監督から提案があるみたいだよ」
社長がそう言いながら、柊監督をちらりと一目見て一歩下がる。
監督はタブレット端末を起動し、画面と俺たちの顔を見比べながら淡々と話し始めた。
「昨日の試合、観客席から拝見させていただきました。全体として、わかやまアプリコットFCには問題点が多々あり、すぐにでも改善する必要があると見受けられます」
無言の俺たちに緊張が走る。自分たちが不甲斐ないのは重々分かっているが、それをストレートに指摘されるのは何歳になっても慣れるものではない。
「まずはFW、素早い動きと突破力で正面からの攻撃は申し分ありません。ですが決めるべきクロスボールにタイミングが合っていません。コンタクトをしっかりと取り、どの場所にどうボールを運ぶのかを日々確認し合ってください」
「耳が痛い限りです」
昨日反省していたのと同じ点を指摘され、横山が駿と小さくなる。
「次に
キャプテンが歯を強く噛みしめる。チームを率いるボランチとして、常に背負う責任感の表れだろう。
「そしてDF、見たところこのチーム一番の穴ですね」
「な……」
何を偉そうに。俺はそう言い返したいのを必死で耐えた。
「個人の力量もそうですが、全面的に連携がとれていません。特にサイドからの攻撃に全体が振られてしまって、片方の守りが手薄になってしまいます。相手をマークすることはすなわちそれだけ穴が広がるということを意識してください」
そんなこと、言われなくてもわかってるわ。舐めているのか?
「柊監督、昨日はずっと練習メニューを考えてきてくれたみたいだよ。みんな優勝目指して頑張ろうね!」
俺が心中どんなこと考えているかなど何も察していないのだろう、社長は浮かれたように話していた。
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