第6話 その日

 朝廷がおこなう大切な会議を明日に控えた日の午後に、は起きた。



 その日の宮中での勤めを終えた後、直比呂なおひろは屋敷に戻り、明日の会議のための準備をしていた。

 屋敷に控えてある自分の書物と、上級貴族から預かった書物とを比べようとしていた直比呂は、一瞬、表情を変えた。


「変だな、確かにこの中にしまっておいたのだが……」


 自分でも、幾つか心当たりを探してみるが見つからない。


「桔梗。ここに有った書物を、何処かで見かけなかっただろうか?」


「はい、朝のうちはこちらの棚の上に、文箱ふばこが在ったのは存じておりましたが……。 どうかされたのですか?」


「文箱は在ったのだが、中に入れてあった書物が見当たらないのだ……」


「それは大変なことでございます!」


「うむ……。お預かりした大切な書物であるゆえ、どうしても見つけなくてはならぬのだ。悪いが、屋敷におる者の手も借りて、皆で探して貰いたいのだが……」


 いつのまにか、直比呂の唇の色は紫に変わっている。


「わかりました。皆に伝えて参ります」


 桔梗は、そう言って急ぎ部屋を出て行く。

 程なく、屋敷に仕えている者が手分けをして、くまなく屋敷中を捜索しだした。



 押し寄せる不安が、直比呂をさいなめる。


 どのくらいの時間が経ったのか ―― しかし、今以いまもって書物は見つからない。

 重苦しい気が、部屋を、屋敷を包んでいた。



 真っ青な顔色をして、身体をこわばらせて座っている直比呂の様子を見かねた桔梗が、意を決して、そっと耳うちをする。


「大丈夫です。きっと見つかります」


 そう言って直比呂の横に座ると、両目を閉じて何かに集中するように深い呼吸を続ける。


「 ‼ 」


 その瞬間 ―― 何かをさとったのか、目を開き、急に立ち上がると桔梗は部屋を出て行くのであった。




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