第5話 光と影

 桔梗がそばに仕えてから、平坦な毎日の繰り返しだった直比呂なおひろの日々は、まことに充実したものになっていった。宮中での働きも順調で、貴族の仲間のうちからの評判も良かった。

 また、屋敷内の誰にも分け隔わけへだてなく優しく接する桔梗には、多くの使用人たちも大きな信用を寄せていくのであった。



 心より仕えてくれる桔梗と、その気遣いに日々感謝する直比呂 ―― そんな二人が、身分を超えて愛し合うようになったのも自然の流れだったのだろう。


 今より半年ほど前に、桔梗がそっと直比呂に耳打ちをした。

が……」

 それを聞いた直比呂は、桔梗の手をとり心より喜んだ。

 自分の手を両手で優しく包んでくれる直比呂の温かさにふれ、思わず涙する桔梗。

「身体を大事にするのだよ」

 直比呂の我が身を気遣ってかけてくれた言葉が、また心温かく嬉しい桔梗だった。



 ――が、そんな仲睦なかむつまじい二人を、屋敷の皆が温かく見守っていた訳ではなかった。

 女房の中に、実に苦々にがにがしい思いで、桔梗を見つめている者がいたのである。


「いくら、御主人様が直々じきじきに呼び寄せたとはいえ、自分より後から屋敷に入って来た女……。

 特に身分も無く何処から来たのかもはっきりしない謎の多い女のくせに、御主人様の寵愛ちょうあいを一身に受けている……」


 ―― 許せない  許せない  許せない ――


 その者は、心に怨念を秘め、いつか「桔梗の足をすくってやろう」と画策していたのだった。

 

 



 



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