265.絶対服従気質ですから
学年別学期末対抗戦。
いわゆる卒業試験に値する、関係各所に声をかけて行う公開型ビックイベントだ。
リディアの委員会での役目は、広報担当。ポスターやパンフレット作成の広告費を集めるため業者に協賛を得て、関係各所に連絡をして出席を促す。広報のパンフレットやポスターも作って、注文までしなきゃいけない。配布方法も考えなきゃいけない。
「――それで、魔法師団への連絡はどうしますか?」
実行委員会で議長がやや引き気味に皆を見渡す。
下っ端で隅に座っていたリディアはメモを取りながら顔を上げる。やることが多すぎて、前年度の担当者から資料をもらわないと、でも誰? と思いながら今の議題に誰も何も言わないことに驚く。
「各師団に招待状を送ります? それとも代表窓口にしますか?」
「それは失礼だろう。団長を招待するんだ、持参じゃないと」
皆が押し黙る。誰もがやりたくない、という雰囲気だ。
「あの、差し出がましいようですが……私が持っていきましょうか? もと職場ですし」
リディアが言えば、安堵の空気が流れる。
そんなに嫌なのか。
「第一から第五まで、ですよね。まずアポイントメントをとって――」
「――では、ハーネスト先生におまかせします」
即座に議長に言われてしまった。
自分は
(そもそも私、常勤じゃなくなるのかもしれないんですけど)
言いたいけど、ここじゃ言えない。
そう思いながら、師団に連絡を取る以上に憂鬱な仕事量に内心おののいていた。
***
団長たちへの招待状。
面識はないし、それでいいならそうする。本来団長とは、そう簡単に会えるものではない。
にもかかわらず第一と第三はふらっと訪ねたら、たまたま団長たちがいたので、それぞれに手渡しをした。
ディアンからは
(――でも、仕事だしなー)
委員会で直々に命令されたことだし、どうしよう。そう思っていたら、
『 オテル・パラディ ラウンジカフェ―― 十五時 E 』
ショートメッセージには、その一言があった。
***
――オテル・パラディ。
中央広場から続く、宝飾店や百貨店が並ぶ目抜き通りの喧騒から少し離れた超高級外資系ホテル。
今から大学を出たら十五時にはギリギリの到着だ。いますぐ出てこいと、リディアの都合を無視してそれでも来なさいというほぼ命令に近い指定だ。
(……遅れたら、二度と会ってもらえない)
リディアは荷物をまとめて、慌てて大学を出た。
オテル・パラディ。
リディアも一度、二十階の展望カフェでアフタヌーンティをしてみたいと憧れているホテル。しかし、アフタヌーンティで八千エンもするので、まだトライしたことがない。
そして、残念ながら今回の指定はホテルのラウンジだ。ホテルの入口にあるラウンジカフェでは、アフタヌーンティセットは注文できない。
車寄せに立つドアマンがにこやかな笑みを向け、白が眩しい手袋で自動ドアを押さえてくれる。
軽く頭を下げながら、エントランスをくぐると、ホールには
赤の花と緑の葉が絡まるデザインのそれは、ベネチアングラスだと聞いたことがある。
彩色が鮮やかでありながら、空間が広いため圧迫感はない。
幅広でゆったりとした階段を二段下がった左手のカフェの入口には、無人のグランドピアノ。金色の曲線を描く手すりに立つ給仕に名を告げると、すぐさま二人席に案内される。
中央より奥のリディアの席は、両隣が女性の二人組。リディアが座るように引かれた椅子は、入口に背を向ける席。
窓際や植木の側は狙われやすいから、テーブルの位置はいいけれど。全体と入口を見渡せない席は好ましくない。
迷いながら腰をおろし、半身を入口に目を向けたところで、目の前に人が座っていたことに驚いた。
「――ディアメル団長、いらっしゃっていたのですね」
「イースク、と呼ぶようにお願いしたはずですよ。――姫」
*イースク・ディアメルは、魔法師リディアと怖くて優しい仲間たち
「Ep.3 The Blue Phantom」に出ています。読まなくても差し支えありませんが、読んで頂くとちょっと二人の関係がわかるかと思います。
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