262.繰り返す再会

 リディアは、学科長の研究室にいた。

 そして、なぞの会話の真っ最中だ。


 いつかもこんなことがあったような気がする。この大学ってみんなこうなの?


「――私の処分は保留ですか」

「処分じゃないわよ。あくまでもあなたからの希望休暇にしておいたから、後で有給届けだしておいて。それから、一応あなたのことだけど、非常勤講師という扱いでどうかしら」

「は?」


 ちょっと待って。


「予算の都合上、あなたを雇う余裕がなくて。だから八時半から一七時半までの非常勤で」

「待ってください! それだと、えーと学生の指導とか時間外はしなくていいんですか?」

「そこはほら、記録には17時半まで働いたとして、そのあと残って指導してくれればいいから」


 冗談じゃない。今までと同じ仕事量で、非常勤採用だと。

 パートタイム雇用だと!? サービス残業しろと?


 常勤の場合は、裁量労働制。どんなに働いても残業代はつかない。


 ――いや、この間調べたけど「使用者と労働者があらかじめ決めた時間」が裁量労働制の労働時間。

 私、どこまでが労働時間と定められたの!?

 何も契約も説明されてもいないけど。


 でも、非常勤だと格段に給料も条件も悪いはず。そのうえで同じ労働しろと!?


 労働基準局にたれこもうかな。


「そうすれば問題ないでしょ?」


 本気で言っているの?


「エルガー教授もネメチ准教授も、連絡とれないし。二人の分の授業と委員会でてくれないと」


 ――辞めていいですか。

 もう、未練はない。本気でそう思った。


「ところで、魔法晶石の盗難の件はどうなったのですか?」


 その犯人の疑いは晴れたのか? 学科長は目を瞬いて、ああ、あれね、と重い溜息をついた。リディアに疑いをかけていたことさえ忘れていたかのようだ。


「院生が盗っていたようなのよ。やけに持ち出しが多い子がいて」

「――もしかしてメグ・ジョーンズですか?」

「知っていたの?」


 リディアを疑っていたのに、全然気まずそうな様子はない。そのことを謝るのが嫌なのだろう。いや、やっぱり忘れていたのかも。


「いいえ、もしかしたらと」

「院生たちの間で噂になっていて、カメラを設置してわかったのよ。今、自宅待機よ。管理方法はアボット先生に任せていたから、それも考えてもらわなくちゃいけないわね」


 気が重いわ、というため息。

 管理不十分で、あなたの責任では、と思ったがリディアは言葉を飲み込んだ。


 自分のような下っ端が言うことじゃない。そしてなぜそうなったのか、を追求しないのか。いいや、していてもきっと自分のような下っ端には教えないだろう。


 後でサイーダに聞けばわかるかもしれない。

 そう思っていたら、学科長からさらなる謎の言葉が出た。


「それから。現場検証をした魔法省の方をお待たせしているから行って頂戴。あなたに話があるそうよ」

「どなたですか……」


 いきなり話が変わった。

 リディアは眉をひそめる。「お待たせして」ってどこにだ。しかも今頃いうなんて、かなり失礼ではないだろうか。


 まず最初に、来客の存在を教えてほしかった。


「では、失礼します。ところで、お待たせしている方のお名前はわかりますか?」


 そうそう、と彼女は引き出しから名刺を探し出して渡してきた。


「ブラム・ボウマン上級魔法師マスターよ」

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