146.about her reason

 『――辞めて欲しい』


 ヴィンチ村での惨劇のあと、目が覚めたリディアに最初に面会をしたのは、魔法師団の王室顧問。貴族からなる評議会との意向だといわれた。


 上層部の言い分は最もだった。

 今回のことは、部隊全滅の危機となるほどの大きな失態だった。最終的に死亡者は出なかったが、誰かが責任を取らなくてはいけない。


 今回の任務は、魔法省の国家特殊任務調整機関から派遣されていたブラム・ボウマンが最終責任者だ。だが魔法師団の現場で最も地位が高いのはディアンだ。

 しかし、案件は第三師団シールドのものであり、ディアンと同じ特級魔法師グランマスターなのはリディアも同じだった。

 たとえ代理だったとしてもリディアが今回の作戦の指揮官だ。


 そして何よりも魔法省、魔法師団としても最も都合が悪い最悪の事実があった。

 それは幻の魔法を消滅させてしまったこと。

 

 蘇生魔法を使える特級魔法師グランマスターがいる、それは公然の秘密だった。

 特級・上級魔法師は名前、クラスと属性を魔法師年表に公表される。だが、未成年だったリディアはまだ公表前だった。


 だから、なかったことにしたほうがいい。幻の魔法の使い手が存在したなど、噂の範囲にしておけばそのうちみんな忘れる。幻の魔法は幻のままで。

 リディアは、もう幻の魔法の使い手ではなく、やめても惜しくはない平凡な魔法の使い手。責任を取らせ辞めさせるには、またとない適役だった。


 ――希望退職。それで終わりだった。


 意識を失い目覚めたのが一週間後、その日中に退職の手続きはなされた。

 幸い筋力、体力の低下はあったが、動くことが出来たし、切符も、駅までの車もすでに手配済み。


 リディアはただ国へと帰る列車に乗ることだけだった。


 左胸から左の上腕までに広がる、黒い蚯蚓腫れのような痣。

 病院でディアンが呪いの進行を止める術を施したのだと聞いた。完全に呪詛をなくすことはできないが、今の段階で進行することはないだろうと。

 

 腕に触れるとディアンの術式だとすぐにわかる、呪われている醜い腕なのに、そこに彼の緻密で丁寧な魔法が絡んで、浄化されているのがわかる。


 彼は、とても無愛想なのに、とても綺麗で丁寧な術式を描くのだ。


「……ディアン先輩」


 列車の中で、肩を押さえる。

 

 辞めたのは魔法師団のためでも、王国のためでもない。

 国の安寧のためにと説得されたがそんなことはどうでもいい。


 ディアンも、ワレリーもきっとすごく怒るだろう。彼らは部下に責任を押し付けない。最後は自分たちが責任を取る人たちなのだ。

 ワレリー団長も、その場にいなかったとしても、自分の責任だと言い張るだろう。

 

 でもそれではだめなのだ。


 リディアは大きく息をつく。

 彼らだって敵は多い。

 魔法師団を纏め上げているが、団長の座を狙う団員は少なくない。それこそ王侯貴族たちも自分の息がかかった者を魔法師団の要職につけようと、日々画策している。

 

 今回の件は、団長たちを引きずり落とす絶好の機会チャンスだった。


(でも、そんなことはさせない)


 それくらいならば、自分が辞める。そんなことは当たり前の選択だった。



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