103.過保護な干渉



「それにしても。何だよ、アレ」


 ディアンとディックがジープに乗り込む所で追いつく。

 団長のディアンは、無表情だが、機嫌があまりよくなさそう。この案件、何か気になっているの?


「魔法暴走してるやつを、抱き締めて落ちつかせるとか――マジやめろ」

「でも」

「そんなんで落ち着くと思うな。張り倒してガクガクして気絶させろ。つーか、お前、アイツに近づきすぎ!」


「でも、私だって不安定だった時、助けてもらったから」


 むっ、とディックは黙り込む。


「ディックにも、ディアン先輩にも感謝してる」


 ありがとうね、としみじみと笑いかけると二人は黙ってしまう。


 ――なんか変な沈黙だな。


「――俺は介入するからな」


 ごほっと咳払いをした後、ディックがボソリと呟く。


「お前のことは尊重してるが、俺の意思でお前に構うぞ。――二度とあんな思いはさせるな」


 リディアは目を瞬いて、うんと頷いた。

 ヴィンチ村での悲劇は、ディックのことも傷つけたと思う。なのにそれを責めずにいてくれる。何も言わずに、わかってくれている。


「ところで、私――。マーレン……ハーイェクに付いているので。後で合流します」

「あん? リディ、今俺が言ったの、聞いてたのか?」


 ディックが声を上げ、ディアンはようやく、ちらりとこちらを見る。リディアも見つめ返す。

 

 ジープは座高が高いから、リディアが見上げる形になる。


 ディアンは何も言わないのに、眼差しはこちらの心を見通すよう。

 彼は嘆息して、それからディックに視線を移し顎で示す。


「――行ってこい」

「はい、ありがとうございます」


 つい、昔の癖で部下のように答えてしまった。ディックはディアンが許可したからか、不承不承頷く。


「――リディ。アイツに気をつけろよ。あのスケベ野郎の半径一メートル以内には近づくな。お前に手を出したら、その長い耳を引っこ抜いて、頭んてっぺんにつけ直してやるっていっとけ」

「それは――カワイイかもしれない」


 うさたんみたい。

 ディックは、故郷に妹がいるとかで、初めて会った時からリディアを妹にするように構い倒す。手荒だが過保護だ。


「あのオレンジ頭のいかにも遊んでます風なパリピ―野郎もだ」

「ウィル・ダーリング?」


 リディアは、わずかに声を上ずらせた。

 ウィルのリディアへの気まぐれ行為は見られていないはずだ。


 結界の中に、虫目ワームは入れない。

 虫目ワームは、うち第一師団の特殊魔法ひとつ。

 自然界の虫や鳥を操り、彼らの視界を借りて映像を写すもの。潜入捜査で存在がばれても、ただの自然界の生き物。こちらが知られることはない。


 が、魔法で動かすので魔法が遮断される場所では使用不可。


「誤解されやすいけど、結構真面目――」


 アレはなかったことにした。

 だから、リディアは平静を作る。


 うん、何もなかった、気にしてはいけない。

 

 光景がちらつくから、リデイアはわずかに眉を寄せた。

 感触は忘れた。悔しいとかそういう複雑な感情もない――はず。


「ディック」


 ディアンが後部席から運転席のディックに何かを投げる。

 キャッチするディックの腕、ねえそれって。


 ディックが、フンと鼻を鳴らし、フレームだけの窓からそれを渡してくる。


「次は爆破しろ」


(――次は? って……)


 それって。

 リディアは口に出しては訊かない。どこまで知られているのか、あんまり知りたくない。

 

 それよりも、渡された物を見下ろす。

 手の平に収まるどこかパイナップルに似た形状のゴムと金属の塊、物騒な武器。


「使い方はわかるな?」

「わかる、けど。でも――手榴弾はいらない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る