88.対魔獣
*作中に、少々お下品な表現があります。ご不快になられたら、すぐにお閉じください。スミマセン
――最初は影だった。
影ひとつなかった砂地に、インクのように黒い影が大きく広がっていく。同時に何かが飛びおりるように飛びかかってきた。
「くそ、はえええ!」
「マーレン、待て! 皆を巻き込む」
マーレンが悔しげに顔を歪めて、風を収める。空中で狙うのは間に合わなかったようだ。
何かが着地と同時に砂を撒き散らす。
皆で顔を庇う、目や口に砂が入り込んで痛みを覚える。
「くそ!」
「マーレン、待て」
敵は翼をはためかせて、砂をばさばさ巻き上げる地味で嫌な攻撃だ、顔を庇い耐え続ける。
ウィルは慌てて頭上のゴーグルをはめる。くそ、何で装着しておかなかったんだよ、俺。
――巨大な、
ゴーグルをずらし目をこすろうとしてウィルは動きを止めた。
――見下ろしてくる鳥の顔に驚愕する。
(ええええと、に、わ、と、り?)
ヤツには、鶏冠がある。顔の周りは羽毛で覆われている。
でも、その顔は――人間のジジイだった。
しかも東洋のハゲ親父、鼻の横には黒くてでかいホクロに、ニタリと笑うスケベ顔。嘴のようなものを開けると、乱杭歯が目立つ。ヤニだらけの歯。
「な、な、な? 何あれ!?」
「……ジジイ?」
誰かが呟く。
白い体毛に、なぜか黒くてぼろぼろの翼。
「な、なあ? コカトリスって、鶏と蛇の合体だろ!? オヤジとの合体じゃねーだろ!?」
「いや……何か、ついて……る、ぞ」
コカトリスは、鶏の頭と胴体に、尾の部分に蛇がついているとされている。しかし、股の部分にうねうねとうねる蛇――ではなく、巨大なミミズがいた。
赤黒い筋の入ったそれがうねる。
「ちん◯?」
チャスは呆然と呟いた。
「何でオヤジ? なんでオス!? オヤジがいるなら、美女でもいいじゃん!! やり直せ!!」
チャスが叫ぶ。
「俺、吐きそう」
ウィルは顔を背けてげんなりした。
ヤンが横で呑気に呟く。
「大きいですね、けだものの癖に。ああいうのを、トマホーク級っていうのでしょうか」
「大したことねー」
マーレンはえらそうに腕を組んで評価している。お前ら、戦う準備しろよ。
「このフル◯ンジジイ! どっかいっちまえ!」
チャスが怒鳴ると、いきなりジジイの顔が凶悪に怒りを見せ、股の一物もどき――じゃなくて、ミミズが素早く頭上から襲い掛かる。
まるで硬い棍棒みたいに、どすっと地面に突き刺すようにチャスに襲い掛かる。
「怒んなよ!」
チャスが転びながら逃げて距離をとるが、チャスだからこそできたこと。
コカトリスは更に激昂して、今度は鶏のように
うねうねとアレに似たミミズ(たぶん)も、左右上下に動き回る。
オヤジの顔は怒りで真っ赤だ。
体長は三メートルくらいだろうか。想定よりも小柄だが、ばさばさと翼をはためかせ跳ねながら頭上をキープして攻撃してくるから、こちらからは反撃がしにくい。
「うっ、わあああ!!」
チャスが叫ぶ。
ウィルが見上げると、彼の胴体はミミズもどきに撒きつかれ捕まっていた。まるで触手だ。女の子だったらAVみたいで少し興奮したかもしれないが、チャスだと全く楽しくない。
触手もどきのチンに撒きつかれたチャスは、そのままオヤジの口元へと持っていかれる。
「やだやだやだ、やめろよ!! 喰うなよ!!」
チャスが暴れているが、オヤジは気にせず嬉しそうに口を開いている。「あーん」という擬態語がつきそうだ。
「チャス!」
キーファが素早く
「ウィル、チャスを! みんな距離を取れ!!」
ウィルは落ちてきたチャスが砂地に転がるのを襟首を掴んで引きあげる。
キーファは、オヤジの目に矢を命中させていた。
「マジかよ」
(なんだ、あのコントロール!?)
人間業じゃない。プロかよ。
「早く!!」
キーファは、鶏冠を逆立ててけたたましい鳴き声をあげる鶏の前に立ち塞がる。
勢いよく振り下ろされる化け物の鳥足。キーファが横に転がり避け、ウィルはその足に魔法剣で斬りつける。石灰石のように硬い、剣が滑る。
くそ、魔法の付加なんてつける暇がない。
その間に、キーファが次の
「だめだ。皆、一時逃げろ! 態勢を立て直す」
「おい、この変態ジジイ!」
チャスが離れたところで叫ぶと、コカトリスはそちらに雄たけびをあげて、走る体勢になる。
どうも、チャスに執着しているようだ。その隙に距離を稼いだキーファは、振り向きざまに、駆け出したヤツの足元に矢を打ち込む。
足をつんのめるコカトリス。
「くそ、くたばれ」
言葉と共にウィルが砂地に思いきり手を叩きつけると、大量の砂が地面から舞い上がる。そして、ぼこり、と大きな穴が開いた。
そこにヤツの足が踏み込む。片足、そして次の足も。
化物は羽を激しく羽ばたかせて、周囲に凄まじい砂嵐を引き起こす。
全員が思わず顔を隠す。しかし、穴は鶏の胴体も引きずりこみながら、どんどん周囲から砂をひきよせて埋もれていく。
化物の胴体が砂の中に消えていく。そして恨めしげに反対から身をくねらせた巨大ミミズも沈んでいく。
「――なあ。砂漠に住む魔獣が、砂で死ぬ?」
チャスの言葉に、キーファは即座に指示を出す。
「これで終わりじゃない。計画通り、この先の廃墟に逃げよう。そこで迎え撃つ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます