17.初回授業後半

「先生。以前習った魔法相関図は、六芒星で示されていましたが、これは六角形を用いるのですか?」


 キーファの質問にリディアは頷く。


 六芒星は、上向きと下向きの正三角形を重ねた星型多角形の図だ。魔法の属性及び系統は、六芒星の形で関係が示される。それを魔法相関図という。


 六芒星の頂点の一角を“風”としそこから右回りで各角に、“水、木、火、土、金”と置く。隣のもの(角)に右回りで影響を及ぼすとされている。

 風は水(雨)を降らせる、水は木を育てる、木は火を生む(燃やす)、火は土をならす、土から金は生じる、金板は風を作る、などのように。

 


 どこから話そうか、説明を頭の中で組み立てる。


「まず、魔法は”系統”で分類されます。一方、人の魔法師として傾向を示す時、または魔法になる前の要素としては”属性”という言い方をします。『火球魔法は火系統魔法である』という言い方や、『自分は水属性魔法師である』と表現したり、『水属性と風属性を合わせて水・風系統魔法である竜巻を起こす』などのようにいいます。そこまではいいですか?」


 一度周囲を見渡す、これも基本だ。


「けれど魔法相関図では、系統も属性も示すことができ、関係に違いはありません」


 置かれた“風、水、木、火、土、金”それぞれの位置関係は、属性でもあり系統でもある。ここまでは2年生で習う。


「魔法は、この六系統を分類とするのが主流ですが、それに“生”と“死”を合わせて八系統と分類とする研究者もいます。けれど、この“生”と“死”は六芒星ではどこに配置がされるのでしょうか。そもそも、外角で示せばいいのであれば、六芒星の中にある六角形を抜いた六光星の形でもいいわけです」


 六芒星は、六本の線が交差することにより六角形を内包している。この六角形を抜いた形を六光星という。


「ただ、魔法相関図がこの六芒星で示されている理由は、まだ解明されていません。過去の黄金時代から形だけが伝わったものですから」


 百年以上前の魔法の黄金時代でのことは殆ど解明されていない。図だけが残り、何を示し、どのような経緯で作られたのかはまだわからない。


 そこで、とリディアは手製の魔石盤を示す。


「この魔石版には六角形が描いてあります。右上角から、水、木、火、土、金、風と右回りで記号と魔石を置いていますね。この図でも右回りで隣り合うものに影響を与えると示しています」


 影響の仕方は、六芒星と同じ作用だ。けれど六角形で示されているのは、ワケがある。


 リディアは、石英を手にして六角形の各辺から線を伸ばし描いて、六芒星に変形させる。全部で六の角が増えたのだ。


「この魔石盤の六角形の水と風の辺から伸びて作られた三角形、その角の頂点にあたるのが“生”、反対に土と火の辺から伸びて作られた下向きの逆三角形は、“死”、そのように説明している研究者もいます」


 ついてきているかな、大丈夫かな?


「先生、この六角形から六芒星へと変えた図では、生と死を加えても、それ以外の四つの角の系統が示されていません。この図だと十二系統になるのですか?」


 キーファにリディアはうなずく。


「まだ明らかにされていませんが、『知られていない魔法の系統が他に四つあるのではないか』、またはキーファの言う通り『十二系統ではないか』と述べている研究者もいます。このように、『もとは六角形であり、線を引き六芒星となったのが、魔法相関図が六光星ではない理由』と主張している研究者もいます」


 学問の世界では、常にそれぞれの主張をする研究者がいるから、統一見解は出されにくい。


「とはいえ、魔法省の定義では現在はまだ、六系統つまり六属性説を取っていますし、国試にもその説が出ますので、皆さんは六芒星の魔法相関図を覚えればいいです」


(すごく古い考えだけどね……)


 現場では、もう六系統ではなく十二系統という六系統から更に上位魔法があるというのが定番説だ。

 このあたりは、基礎魔法では教えないので、みんなふーんというあまり実感がないなという顔で聞き入っている。


「皆さんの選択した境界型魔法領域、というのは、まさにこの六系統以外の、知られていない残りの六系統を示しているのではないかと、考えることもできるのだけど。興味ない?」

「え!?」


 と、声を上げたのは、チャス。

 キーファも、ウィルもこちらを見ている、ただしウィルはこっちを睨みつけているように見えるんだけど……。


 うちの領域の境界型魔法は何を含んでいるかは、全く明言されていない。

 けれど六系統以外の分類、つまり十二系統分類での解明されていない部分じゃないかとリディアは考えている。

 

 エルガー教授に「この領域で示す境界型魔法ってなんですか」、と聞いたら「それを決めるのは私じゃないわ、魔法省よ」と言われたけど。


 あなたの設立した領域ですけどね。

 研究者って何らかの仮説を自分で持っているものだけどね……。


「俺のって、完全に枠外って言われてんだけど? 魔法でさえもないって」


 疑わしい眼差しのチャス。

 彼が使える唯一の魔法は特殊だ。『周囲の魔法を完全無効化してしまう能力』だと聞いた。

 

 そのせいで、彼は許された環境、状況下以外では魔法を使うことが禁止されている。

 普通の授業、普通の生活上では、一切発現禁止。

 彼の魔法は、何であるかわかっていない。

 そのため施設で研究協力を行い、その時だけ使ってみせていると聞いている。


「でも解明されていない魔法が四つもあるのよ、もしかしたらそれだけではないかもしれない。そこにあなたの魔法が何であるか、判明する糸口があるかもしれない」


 チャスは何かを言いかけて、けれど口を閉じる。

 普段軽い口調の彼だが、自分のことだし、本当は複雑な思いをもっているのかもしれない。


「今回魔法相関を六角形で示したのは、この魔石盤における皆さんの魔力を測り、更に上位属性が示される可能性を見るためです」


 そして、リディアは皆を見渡した。


「――というわけで、各自測ってみましょう」

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