ライバル登場?

 

「何やってるのよ、あなたたちは……」


 またレナがやって来た。さっき怒ってどっか行ったんじゃなかったか。お前こそ、何がしたいんだか。


「いや、別に。なあ」


「ええ」


「本当?」


 そんなジト目で見られても困りますお嬢さん。


「王女殿下も、まさか聖女様と正面切って女の争いするとはねえ」


 女の争い?


「なんの話でしょうか、負け犬さん」


 サーヤ、喧嘩を売るのはやめなさい。


「まっ! ……はあ、ヒジリは中途半端に鈍感だから、こうして婚約者と居られるだけで幸せなのかもしれないけど、想いを伝えようも伝えられなかったこっちのことも考えて欲しいわね」


「はあ? 自分から告白しておいて何言ってんだ」


「じゃあなに、この前勇気出して告白する以前に、私がアンタのことを好きだということに気づいて居たとでも?」


「……それは」


「ほらね」


 ぐうの音も出ない。


「昔から愛し愛されあっていた私たちには関係のない話ですよね、ねー?」


「あ、ああ。ねー」


「なにがねーだ、ぶりっ子姫」


「あ?」


「あ?」


「ちょ、やめろって二人とも!」


 昔はこんな仲悪くなったはずなんだけど……それにサーヤも口が悪いし。こんなんじゃ、国王陛下になんと言われるか……目をひん剝いちゃって、もう。可愛い顔が台無しだ。


 二人の頭を手を乗せ撫でてやる。が、あまり効果がなかった。むしろ今度は俺のことを睨む。


「なんだよ?」


「頭撫でたぐらいで大人しくなると思ってるの? 女の恋心をなめないで頂戴!」


 レナはそう言い放つ。


「別にそういう意図があるわけじゃない、ただ、人目があるからだなあ……! それに何度も言うけど、俺がこの世で一番好きな女性はサーヤなんだ。こんな喧嘩をしたところで、俺の想いがコロコロ変わるわけないだろ。そっちこそ、俺の感情をなめないで欲しい」


「じゃあヒジリは、レナのことはなんとも思ってないんですよね?」


「え?」


 何故そういう話になる!


「はあ? ヒジリはアンタなんかじゃ扱えない、私がいるからこそのコイツなんだけど。二年間城の中で一人よがってた淫乱雌豚姫には勿体無いわ」


「レナ、言い過ぎだっ」


 レナはサーヤに罵詈雑言を浴びせる。と……



「--おい、いい加減にしろや牛乳うしちちデブス」




 さ、サーヤがついに壊れた!


「ブスはてめーだブス」


 レナも売り言葉に買い言葉ですぐさま言い返す。もはや二人とも周りのことなど目に入らないようだ。


「ああん? やんのかこの泥棒猫」


「おいサーヤ、やめろって。レナもほら、向こうに行こうぜ、な?」


 レナの肩を持ちこの場を退散させようとする。


「ちょっとやめてよ、これは私とこいつの問題なの! 悪いけど、今は口を挟まないで頂戴」


「その通りです、ヒジリ。誰に求めることのできない女の戦いなのです!」


 しかし、二人ともその場を動こうとしない。逆に俺が突き放されてしまった。


「だれかーとめてー」


 ああ、どうしよ……

 周りの役人達は見て見ぬ振りをしている。お前ら後で全員陛下に言いつけるぞこら!

 睨みつけたら顔を晒しやがった。はい、免職決定な!!


 と、その時。




「ヒジリ様っ!」




「はい?」


 突然後ろから聞こえた声に振り向くと、そこにいたのは----


「--マリーヤ?」


「!! 覚えてくださっていたのですね! 嬉しいですわっ!」


「うおっ!?」


 銀髪の少女が俺の胸に飛び込んできた。


「ヒジリ様、お逢いしとうございましたっ」


 銀髪の少女マリーヤは嬉しそうに胸に頭をグリグリと擦り付ける。


「「なあっ!?」」


 そして当然のごとく、サーヤとレナが鬼の形相になる。


「おひさしぶりでございます、勇者様。お招きくださり誠に光栄の至り」


 そして専属執事のセバステンまで。


「いえいえ、こちらこそ来てくださりありがとうございます! その後、国の方は?」


「ええ、なんとか立て直しつつあります。これも、魔王軍幹部を倒してくださった勇者様のおかげに他なりません。改めて御礼申しあげます」


 セバステンは相変わらずの洗練された動作でお辞儀をする。さすがは姫様に仕える執事だ。


「むー、むー!」


「なんだよ、はいはい、これでいいか?」


「むふふう〜」


 マリーヤが今度は俺の手に頭を押し付けて来たので、撫でてやる。こいつの国に滞在していた時にはやたらと甘えて来てよく撫でてやったものだ。




「ヒジリ」




「はひっ」


 すると、背中側から冷気が漂って来た。


「どういうことか説明してもらいましょうか?」


「ど、どどういうこととは?」


「なんでその女がいるのよってことよ!」


「さ、さあ?」


 レナとサーヤ、二人に責められてタジタジになる。


「おほほ、誰かと思えば"元"婚約者のサーヤ王女じゃあありませんか? ご機嫌麗しゅう」


 マリーヤは俺から離れ、優雅にカーテシーをする。


「はい?」


 彼女が元の部分を強調していうものだから、サーヤの顔がさらに歪んでしまった。なんの挑発だよ、というか元って?


「ヒジリ、こいつってピョードルン王国のマリーヤ姫だよね? この高慢ちきな態度、よく覚えているわ」


「あら、負け犬幼馴染こと噛ませヒロインのレナさんじゃありませんか、その後ヒジリ様とは……まあ聞くだけ無駄ですわね」


「なあっ!? 相変わらずムカつくもの言いね……!」


 レナも両拳を握り今にも殴りかかりそうだ。


「まあまあ、どうどう」


「ふあっ!?」


 後ろから羽交い締めにする。と、途端に大人しくなった。


「わかったから、や、やめてよねっ!」


 すぐさま振りほどかれる。まあ俺の方が背がちっこいから仕方ないけど。そこまで怒ることか? 顔真っ赤だぞ。


 そんなことをしている間にも、二人の姫様の喧嘩は続いている。


「何しにいらしたんですか?」


「あら、招待状を送ったのはそちらでは無くて?」


「ここにございます」


 すかさずセバステンが懐から封筒を取り出す。

 確かに、祝勝会の招待状だ。


「返信も致しましたわよ? まさか、誰が来るかご存じないのですか? まあまあ、お飾りの姫様は大変ですわね」


「どちらの方がお飾りポンコツ姫なんでしょうねぇ? 返信くらい私も確認しております。ですが、そこは大人のやりとり、社交辞令程度のお誘いだとお気づきにならなかったのでしょうか?」


 サーヤはマリーヤのことを睨みつける。


「あらあら、怖い顔ですこと。そんなんだから、婚約者に逃げられてしまうのですよ?」


「さっきからなんの話をしているのよ、マリーヤ」


 レナも再び参戦する。


「確かに、俺も気になるな。サーヤは間違いなく今現在も俺の婚約者だが、マリーヤは一体何を言っているんだ?」


「ヒジリ様、まさかお忘れなのですか?」


 と、なぜか涙目になる。


「え、な、なんだよ」


「あの魔族を倒した後……私と婚約してくださったではありませんか!」


 へえ?



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王を倒して国に帰ると、婚約者が依存症になっていました ラムダックス @dorgadolgerius

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ