ちっぱい=正義

 

「派閥、ねえ」


 俺はそのまま城の客室に泊まらせてもらった。

 ベッドに寝転がり、三人での歓談について今一度整理する。


「文官と武官の対立か」


 魔王討伐の旅をしているときにも、政に関して派閥が出来ている国は結構あった。利権が絡むとそういうことは起こりやすい。


 文官と武官は一見、職務が違うように思えるものの、実際は横の繋がりが存在する。

 但し、それは友好関係というわけではなく、互いの予算配分に関してだったり、商人との取引ルートであったり。要は"旨味"の取り合いだ。


 予算を決めるのは大体は文官の仕事。だが武官が商人と密接な関係にあれば、武器の仕入れなどで強気に出ることができる。

 そうやって折衝を重ねていくうちに、余計と癒着が進み賄賂が飛び交う。そうして腐敗した内政しか敷けない国もあった。国民は重税に耐え、今日食べるものに困るような状況にあっても、自分のため、家族のためになんとか日々を生き延びていた。

 それに、ただでさえ魔族の脅威にさらされていたのだ、たまったもんじゃなかったろうな。


 まさか、この国がそこまで腐敗しているとは思えないが……確かに税が重いという声は一定数ある。だがその分、民に還元されていると俺は思っている。


 が、それが俺の腕と何の関係があると言うのか。

 魔道具は基本的に文武どちらにも属す。生活用品から大量破壊兵器まで、その技術はとどまるところを知らない。


 しかし、俺の腕は武力としての魔道具だ。サーヤのいうとおり、武官たちが何か企んでいると考えるのが筋だろう。そこに教団という、魔道具とは一見何の関係もない組織が絡んできていることで、この問題を複雑にしているのだ。


 俺の手術を担当したのは通常の医者ではなく、教団に属する医者たちだ。そして主治医は逃亡し、レナやイセンタが聞き出した助手たちの話も信用するには少し信頼性に欠ける。

 その主治医は今、サーヤの手配で行方を追っているらしいが、見つかるかどうかはわからない。


 現状、これらの限られた情報で推測するしかないというわけか……


「それにしても、枢機卿が絡んでるなんて」


 どちらの枢機卿にも、俺個人として直接会ったことはない。俺の出陣式で前に出てきて挨拶をしたくらいだ。

 サーヤの話が本当なら、二人いる枢機卿はそれぞれ文官派武官派に別れ深い仲にあるという。武官派の枢機卿が、俺の腕の改造に絡んでいる。そこにどのような利権があるのか。一体何を得られるというのか?


 ……そもそもの話、この右腕に埋め込まれているという魔道具を作ったのはどこのどいつなんだ?

 その魔道具を作ったやつと、何か裏取引をして賄賂を得たとか、性能を確かめるために勇者という存在を利用しようとしているのか。


 金ならばまだわかる。勇者様も使っている魔道具! として、実際はどうあれ各国に売り込むことができるだろう。

 が、性能を確かめるためには、俺がこれを使わなければ意味がない。今後一生一度も使わない可能性だって十分にあるのだ。


「うーん、わからん……」


 証拠がないのだ。

 これらは全て俺たちの出した憶測に過ぎない。派閥と教団との癒着に関してだって、こういう問題は根が深いものだ。早急に詳らかにする事は大変難しいだろう。


 何より、誰が指示を出したのか。

 枢機卿が命令したということになっているが、実は国の方からの指示だったりするかも知れない。その国の役人とつながっている商人や、場合によっては悪人からの指示なのかもしれないからなあ。


「今は……寝るか!」


 色々とあり過ぎて、あまり寝られてないのだ。サーヤとイチャイチャする時間も必要だしな!


「とにかく今は祝勝会、そして凱旋を成功させなければ」




 ☆




 飛んで祝勝会前日、朝。


「おはよう、ヒジリっ」


「ああ、おはようサーヤ」


 客室に止まって以降、ここ数日はサーヤの部屋で寝泊まりした。もう今更隠すこともないだろうという彼女の判断によるものだ。

 国王陛下は何を恐れているのか、あれ以降俺たちの関係を問い質してはこない。まさか、サーヤが怒ったから、なんて理由じゃないとは思うが。


「服、着ないと」


「え? そ、そうだな」


 サーヤも昔のように、だいぶタメ口で話しかけてきてくれるようになった。

 この二年間で一部分以外だいぶんと成長したが、やはり俺にとってはいつまでも幼馴染の婚約者、いや、妻となる可愛い女の子なんだから。


 その彼女の成長した身体が、朝日に照らされる。透き通った絹のような滑らかな白い肌と、太陽よりも輝かしい黄金の髪と目。ピンク色の唇。全てが愛おしい。

 後は一部分が育ってくれさえすれば……


「……ヒジリ」


「ひゃい」


 部屋の空気が下がった、気がした。


「今何か失礼なことを考えては」


「失礼します」


 とそこまで言ったところで、侍女が数人、入ってくる。もう俺たちのことは皆知っているため、慣れたものだ。新人か、たまに顔を赤くして雑用をこなす娘もいるが、そこはご愛嬌。


「殿下、本日は明日の打ち合わせとリハーサルが主な内容となっております。勇者様も、同じく」


「……わかりました」

「はい、了解です!」


 渡された服を着ながら、返事をする。その間、軽い朝食が運ばれ、部屋の換気がなされる。予定を伝え、必要な資料を用いて説明をしてくれる。

 全てがテキパキとこなされる様は、さすが王城に使える者たちだと感心する。


「ヒジリ、この後は旅の仲間の皆さんと合流し、最終打ち合わせを行うようです」


「お、おう、わかった」


 目が怖いですよ王女殿下! 光がなくなって理性を失わないようにしないと……みんな見てるんだから、な?


 サーヤは人のいる前では敬語を使うと言って聞かない。二人でいる時の女の子のサーヤと、人前での王女としてのサーヤ。どちらも見られる俺は幸せ者だ。

 そういえば、王妃殿下も同じような使い分けをしていたはずだ。亡くなった母親の前をして、少しでも良い女王となれるよう頑張っているのだろう。


 ん? そういや国王陛下は、俺が後継に云々と仰せられていた気がするが……どうだったかなあ? 気のせい気のせい。


「殿下、勇者様。お食事の用意が整いました」


「「ありがとうございます」」


 さて、今日も一日頑張りますか!

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