そして会議
「ヒジリっ!」
「えっ、サーヤ!? て、当たり前か。俺たちの婚約発表も兼ねてるんだからな」
「私達もいるんだけど、無視しないでくださるかしら、勇者様?」
「れ、レナ……」
扉の視界の壁から声がし、そっちを向くと、壁に背を預け腕を組むレナがいた。
「おうよ。きっちり話し合おうぜ!」
「ガンツも。もう飲みは終わったのか?」
「当たり前だ、そこまで酒に溺れてねえよ俺は」
ガンツももちろんおり、俺の首に腕を回して来る。
「いてて」
や、やめて、息が……
「ガンツさん、いけませんよ! 王女殿下の御前ではしたないですっ!」
そしてイセンタ。
「昨日は、すみませんでした。あの後医者達をもう一度問い詰めたのですが、これ以上は話せないの一点張りで……」
イセンタは申しわけなさそうな顔をし少し俯く。
「いいや、ありがとう。すまなかったね」
「にゅう〜」
頭を撫でてやると、また不思議な声を出して笑顔になった。
こんな声、一体どこから出ているんだ?
あ、ちなみにこの腕の件は昨日サーヤに教えておいた。
最初はカンカンに怒っていたが、ブツブツと何か独り言を呟いたのち、わかりましたとだけ言ってそれから話題にはなっていない。怖い。
まあこういう時は権力者に任せておいた方が良いだろう。
勿論、俺の方でも調べ続けるが。
「むう」
レナがイセンタのことを睨んでいる。
「はいはい、これで良いですか、お嬢様?」
「ふ、ふんっ! やめてよ気持ち悪い!」
仕方ないので、彼女の頭も撫でてやる。表面上は怒ってはいるが、満更でもなさそうだ。だって俺の手に頭押し付けてるもん。
「というかお前、この祝勝会のことなんで伝えてくれなかったんだよ」
「はあ? どっかの勇者様が、お姫様とお猿さんごっこしてたからでしょうに! 伝える気も失せるに決まっているでしょう、人の気持ちも知らないで!」
「そ、それは……でもそれとこれとは関係ないだろう?」
「ふん、知らないっ」
レナは俺のことが好きなのだという。だが、そんな俺がサーヤと散々イチャイチャした後実家に姿を見せたため、怒っているのだ。結構自己中な考え方な気もするが、本当、可愛げのないやつだ。
だが前まではただの幼馴染としか認識していなかったけど、告白された後に改めてこう近くでみると、美人なのは間違いないな、と思う。
まあ、俺にはサーヤがいるから。すまんな、レナ。やっぱ、その気持ちには応えられそうにないわ。
「ヒジリ……」
「ちょ、サーヤ」
と、サーヤが椅子から立ち上がり、俺の方へ来て反対の手を取って自らの頭を撫でさせる。
「ヒジリの婚約者は私なのですっ。私が一番に撫でられるべきなのですっ。なのに、なのに、聖女様ったらなんと羨ましい……!」
「そ、そんな、申し訳ありません王女殿下!」
膨れっ面で睨まれたイセンタはサーヤに対してぺこぺこと頭を下げる。
「はあ……サーヤ。これはそういうのじゃないから、な?」
「あっ……」
「えっ……」
レナの頭から手を離し、サーヤの頬を両手で優しく掴む。
「でもでも、ヒジリの一番は私が良いのです。ヒジリのことはなんでも知っておきたい、ヒジリのそばにいたい。ヒジリの存在をずっと感じていたいし、一番大切にされ大切にする存在でありたい。そう思うのは、おかしいでしょうか?」
上着の裾を掴み顔を赤らめて、潤んだ瞳で俺を見上げる。俺は目線を合わせて話をする。
「……いいや、そんなことはない。俺だって、サーヤのことは常に一番に考えてあげたい。だが時と場所と事情を考慮する必要があるだろう?」
「……そうですね。すみませんでした皆さん、お待たせいたしました」
サーヤは俺から離れ、皆に向かって席に座るように促す。
「やれやれ、お熱いこって。これじゃあ
椅子に座りつつ、ガンツがそうこぼす。
「そ、そんな、子供だなんて、まだ早いですよ……ねえ、ヒジリ?」
サーヤがいやんいやんと頭を振る。でもとても嬉しそうなのは気のせいか? 気のせいじゃないな、うん。
「お、おう。そうだぞやめろよガンツ。噂を聞いたのかもしれないが、俺たちにはまだ早い話だ」
「へいへい」
「なによ、イチャイチャしちゃってっ!」
レナはなぜかとても怒っている。今の会話にそんな起こる要素あったか?
「あのー、そろそろ会議を……」
と、今まで静観していたポンズ外務大臣が口を開いた。
「そうですな。姫様、後ほどゆっくりとお話を聞かせていただきますぞ? ほっほっほ」
禿げたおっさんが相槌を打つ。
「ではまず自己紹介から。わたしは宰相のショーユです。宰相とは、まあ一言で言いますと、陛下のお手伝いさんみたいなものですな! 各大臣の取りまとめや、国政の助言など様々な仕事をしております。今回も、祝勝会及び各国凱旋についての陛下の具体的なお考えをお伝えいたしますゆえ。よろしくおねがいします」
ショーユは頭は禿げているがあごひげが凄い五十代と思われる男性だ。俺も何度かあっているため知っている。
「では次は私から。外務大臣のポンズです。祝勝会などについては私たち外務省の管轄になりますゆえ、様々な手続きは私たちを通して行われるものとご理解ください。皆様の提案には、できるだけ寄り添えるよう尽力いたしますゆえ、よろしくお願い申し上げます」
ポンズは黒髪を七対三に分けた眼鏡の男性だ。ショーユよりは少し若いと思われる。俺は今まで話をしたことがなかったが、かなり几帳面な性格に見える。
「では次、勇者様がたにおねがいしたく」
「ええ、ではわたしから」
「…………というわけで、あと一週間で準備をしなければなりません。急な話ですが、これも外交戦略の一環です。ご理解いただきたく存じます」
「あの、ちょっといいですか? 本当に私たちはヒジリに同行できないの?」
と、レナが発言する。
「ご説明申し上げました通り、お三方にも祝勝会の後それぞれ行事に出席していただきたく……」
「でも、この女とヒジリが二人きりだなんて! 私たち、二年間も命をかけた旅を続けてきたのに、共に喜びを分かち合えないだなんて!」
「ですから賢者様、勇者様の凱旋が終われば、また色々と行事がありますから」
「でも、この女とヒジリは旅の間イチャイチャして遊びまわるんでしょ? 私たちは、会いたくもない各国の肥えたおっさん共に挨拶される毎日。こんなの我慢できないわ」
「レナ、落ち着けよ」
ガンツが釘を指すが、彼女は無視をする。
「私達も、同行させてください宰相様。おねがいします」
「レナさん……」
イセンタも、珍しく眉をひそめる。
「ちょっとよろしいでしょうか?」
と、会議が始まってから今まで口を閉ざしたままだったサーヤが、初めて発言をした。
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