また謁見
俺たちはキスしかしなかった。本当だぞ?
更に翌朝、また国王陛下に呼び出された。
右腕の件についてもう一度中央教会に伺いにいこうと思っていたのだが、仕方ない。
「勇者ヒジリ、ここに参上仕りまつる」
「うむ、御苦労。面を上げよ」
「はっ!」
昨日のとは違い、今日のは正式な謁見だ。
左右には大臣などの国の重役がズラリと並んでいる。兵士の数も昨日とは桁違いだ。俺は武器を取り上げられているので、そんなに警戒しなくてもいい気がする。
それにしても、陛下の御前で顔を上げて良いとは、俺も出世したもんだなあ。勇者の肩書きがあるのだから、顔ぐらいみさせろとサーヤが直訴したらしい。
個人的には陛下の眼光に射抜かれたくないのだが。
「さて、呼び出したのはいうまでもない。お主らの婚約についてだ」
「こ、婚約についてでありますか?」
「うむ」
ま、まさか、本当に解消……
「わしも一晩考えた。確かにお主の蛮行は許しがたい、一人の父親として、国王として」
「も、申し訳ありません……」
「そこでだ」
陛下は杖をガツンと床に突く。
と、脇に並んだ偉いさんの列から一人の男が前に出て来た。
「外務大臣のポンズであります、勇者ヒジリ様。どうぞよしなに」
「はあ、どうも」
「では単刀直入に。勇者様には、婚約の発表ののちすぐに、各国外交に同行していただきたく存じ上げる次第です」
「外交、ですか。それに、婚約を発表……!?」
え、取り消しではなく、その逆ってことだよな?
つまり俺たちのことを公にしてしまうってことか。
「うむ、そうだ。貴様も知っての通り、一夜を共にしたことは既に噂として広まりつつある」
陛下のおっしゃるとおり、サーヤから陛下へ、陛下から側近へ、側近から……と人伝いに広まっているのだ。
中には俺がサーヤを孕ませたなんて尾ひれがついた話を話している侍女を見かけたくらいだ。勿論、すぐに訂正したが。
「ええ、我々としては王女殿下と勇者様の婚約を諸外国は公表し、勇者の凱旋とセットで披露宴代わりの旅をしていただこうと考えております」
凱旋もかねてか。ということは、レナたちはどうなるんだ?
「ああ、お仲間のお三方はご同行なさいません」
「え?」
どういうことだ?
「今回の外交はあくまで勇者ヒジリ様個人としてのものです。勇者パーティとしては、一週間後、ここ王城祝勝会を開く予定です」
「えっ!?」
聞いてないんですけど!
「あれ? もしかしてご存知ないのですか!?」
「ご存知ないです!!」
「そんな、レナ様から伝えていただけると聞いていたのですが……」
あ、あの野郎、俺とサーヤのことを妬んで意地悪してるんだな?
俺のことを好きで告白して来たくせに、全く可愛げのないやつだ。今度お尻ぺんぺんの刑に処すか。
「まあまあ、祝勝会のことは既に各国に伝えてある。その場で婚約を発表、しかるのち、外交の旅に出てもらうつもりだ。わかったな?」
陛下は玉座から身を乗り出しそう仰る。
「は、はい、仰せの通りに」
としか言いようがないだろう……
「一週間という短い準備期間は、勇者のことをどのくらい重要視しているか測るためのものなのですよ」
ポンズさんは眼鏡を人差し指で上げ、ニヤリと笑う。
「というと?」
「何せあなたは世界を救ったお方なのです。会ってコネを使っておきたいと思う国は両手で数え切れないほどあるでしょう。祝勝会にどのくらいの規模で参加するのかは、どの国がどのくらい注目しているか、その指標になるのですよ」
なるほど、一週間という短い時間の間に、頑張って準備してより重役を、より多くの人を送り込む国は勇者に注目しており、その逆はないがしろにしているというわけか。
人を動かすにも金がいる。まして国をまたぐ移動だ。王国に来るためならばその金も惜しまないという国とは、今後も良い付き合いをしていこうという魂胆か。また、今後の様々な交渉において、王国が強気に出られるかどうかの見極めにもなるだろうしな。
「それに、祝勝会ということは祝いの品も持参するはずですから。各国が今世界に向けて注目してもらいたい特産品、売り出したい物を調べるいい機会にもなります」
「だが相手の方も、これだけの人と金を使ったのだからと見返りを求めるだろう。ポンズ、わかっておるな」
「ええ、もちろんですとも陛下」
こういうやり取りを見ていると、やはり国の偉い人って色々考えているんだなってわかるな。
まあその一つをフイにしてしまった俺が怒られるのも仕方ないか……
「その祝勝会の場において二人の婚約を発表し、その後すぐに世界を巡ってもらう。その訪問先は、祝勝会に力を注いだ国からだ。なのでいきなり遠くの国に向かう可能性もあることをわかっておいてもらわなければならない」
「そうですか、わかりました」
ということは、勇者ごときに、なんて思って大した祝いをしなかった国は、婚約の発表を聞いて悔しがるだろうな。
人や物を多く送っている国は、臨機応変に祝いの品を贈ることもできようが、そうでない国は第一王女の婚約までないがしろにしていると捉えられても仕方のない状況となる。
そもそも、俺たちの婚約を知っているのは、俺の把握している限り国王陛下と俺たち二人、その母親(つまりは俺の母さん)、そしてレナ達勇者の仲間だ。恐らく陛下の側近の何人かも知っているだろう。それでも十人ほどだ。
また、各国のスパイも情報を掴んでいるかも知れない。が、確かな情報を得るには結局は陛下に直接尋ねるか、俺たちに尋ねるしかない。なので一週間後が事実上初めての公表となるのだ。
その前に一夜を共にしたことがバレてしまったわけだが…………
「準備期間もあるが、半月もすれば暫くはこの国に帰ってこれなくなる。祝勝会等の準備もだが、しばらくの別れも早急に済ませておくように!」
「はっ、仰せのままに!」
俺は片膝をつき礼をする。
「わしからの話は以上だ。これ以上の詳しいことは宰相および外務大臣から聞くように」
「ははっ」
それだけ言い残して、陛下は謁見の間を後にした。
「では、打ち合わせをしますので案内致します。ついて来てください」
そしてすぐあと、禿げたおっさんがそう話しかけて来た。
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