幼馴染に告白されました

 

「は?」


「え、えっと、だから、私はあんたのことが好きなの! わかるっ!?」


「え、な、なに言ってんだよお前。好きって、はあ?」


「好きなの、昔から。小さい時からずっと……今までずっと黙ってきたけど、でも、ようやく言えた……ううっ」


「え、ちょ、泣くなよ!」


 泣きたいのはこっちだ!

 大して好かれていないと思っていた幼馴染に、婚約者の目の前で告白されたんだぞ!


「だっで、ヒジリ、ぜんぜんぎづいでぐれないんだもん!!」


「レナ、ひとまず顔を……」


「あ、ありがど」


 サーヤもぐちゃぐちゃになったレナの顔を見てられないのか、ハンカチを渡した。さっきまでバチバチと火花を散らしていたくせに、この二人は仲がいいのか悪いのか。


「そんなの……わかるわけねーだろ、お前いつも俺のこと嫌っているかのような素振りみせてたじゃん!」


「ぐすっ。そ、それは……は、恥ずかしかったから……」


「はあ?」


「は、恥ずかしかったのよ! 素直に接せられないの! ヒジリと一緒にいると、胸がキュンッてなって、お腹がズキズキと疼くの。手が触れただけでドキッとするし、目があったら顔から火が出そうになるの」


「そ、そんなに、俺のことを? ま、マジで?」


「大真面目よ。それに私は八歳も年上のお姉さんだし、あんたのことは弟みたいにも思っていたから、自分の気持ちを曝け出すのは気が引けたのもあったの」


「俺にとっては、歳が離れていても幼馴染であることには変わりないけどな……」


「そ、そう? ありがとっ。えへへ」


「お、おう」


 なんだよ、お前、そんなに綺麗な顔で笑えるのかよ。くそっ、不覚にもドキドキしてしまったじゃねーか。




「お二人さん、私のこと忘れてませんか?」




 と、後ろから急な氷を打ち込まれたような空気が伝わってきた。


「え、さ、サーヤ?」


「さて、もういいでしょう。敵に情けをかけるのはここまでですよ、レナさん」


「ええ、そうね。馴れ合いするつもりはないわ。さっきも話にあったとおり、白黒つけましょうか」


「その通りです。ヒジリ」


「は、はいっ?」


 サーヤは椅子から立ち上がり、俺の目の前へやって来る。

 そしてなんと、膝の上にまたがってきた。


「私とあの女、どっちが大事か、答えて?」


「え?」


「ねえ、お願い」


 サーヤは舌なめずりをし、俺の頬に手を添える。


「ちょっと、なにしてんのよ!」


「私とあなたは婚約者で幼馴染。更に同い年。昨夜は深く愛し合った仲でもある。でもレナは歳上のおばさんで、ツンツンしてばかりで、さっきようやく告白してきた」


 レナの抗議を無視し、更に反対の手も添えてきた。


「サーヤ、どうしたんだ、おかしいぞ」


「いいえ。この際だから言うわ。ヒジリ、これが本来の私なの」


「え?」


 今度は俺の胸元に人差し指を当て、つつつ、と撫でる。そして穴に重しのついた紐を通すだけのローブの留め具を跳ね除け外され、肌着が露わになる。


「いつもは、なんと言うか、カマトトぶってた? って言うのかしら。清楚でウブなお姫様を演じていたのよ」


「演じて……な、なにいってんだよ、サーヤ」


「本当の私は、もっと重い女なのよ。自分で言うのもなんだけどね」


 サーヤは俺の薄い肌着の上から胸を手のひらで撫で回す。くすぐったくてなんだかぞくぞくする。


「ヒジリの方が大好きなの。一目惚れだったわ。少しきつめの目つきも、少し抜けている時があるところも、いざという時は頼りになる男らしさも、全部好き。髪の毛一本から足の爪の先まで、全部好き。全てを手に入れたいの。全てを私の目の届くところに置いておきたいの」


「おい、や、やめろよ、むぐっ」


「んっ」


「なぁっ!?」


 口の中に舌を入れて来る。そしてサーヤはそのまま口内を蹂躙する。全身を快感が駆け巡り、抵抗するための力が入らない。


「ふぃひり、んあっ、らいふき、わたひのもの」


 ん、息が……


「やあっ!」


「ぷはあっ!」


 だが、なんとか無理やり手で押しのける。


「やだっ、もっとするの、ヒジリっ。どうして邪魔するの?」


 サーヤは、なんだか幼児に戻ったかのような口調だ。


「私、ヒジリになら何もかもあげるつもりよ? この身体も、財産も、王位だって」


「おい、幾ら何でも言い過ぎだ。自棄になるなよ」


「そんなことないもん。全て本心、私の望み。ヒジリがいれば、例えこの世界が滅びようとも、構わない」


「ねえ、もっと、キスしよ?」


「何故そうなる? サーヤ、落ち着け。おかしいぞお前」


 俺はサーヤを膝から降ろそうとする。が、凄い力で抱きしめられた。


「やあっ!」


「お、おい。離せよ」


「いやっ、どこにも行かないで!」


「行かないから、ちょっと降りて欲しいだけだからさ!」


「んーん、このままがいいの! ヒジリの匂いが嗅ぎたいの、触っていたいの、唾液を交換して、舌を絡めて、愛し合いたいのっ!!」


 サーヤはイヤイヤ、と俺の背中から掴んだ両手を離そうとしない。更に足まで絡めてきた。


「だから落ち着けって、な?」


「はあっ、ヒジリ、好きっ、好き! はあっ、はあっ」


「ちょ、何してんだお前っ!」


 と、腰を動かし俺の太ももに擦り付け始めた。レナがいる前で何してんだ、アホ!


「レナ、助けてくれ!」


 俺はレナを呼ぶ。が、返事がない。


「おい、レナ? レナ!」


「はあん、あっ、あっ!」


「ちょ、まじでやばいから!」


 俺は解放された顔を動かし後ろを振り向く。




「キスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスキスキスキスキス」




「ひっ」


 何故だ、レナまでおかしくなってしまっているぞ!

 目の焦点があっておらず、抑揚のない声でブツブツと呟いている。

 俺がサーヤに無理やりキスされたのが、そんなにショックだったのか!?


「ああ、もう、どうしろと!」


 この場にいるのは俺たち三人だけ。また、昔のままならば、俺がここを訪れる時には部屋には防音魔法がかかっているはずだ。叫んでも外の近衛兵に聞こえることはないだろう。


「ううううう、いくっ、いくのおおおお! ヒジリ、ヒジリ、らいすきぃっ!」


「ええっ」


「キスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキス」


「うわあっ」


 もう、嫌だ……


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