女の戦争
「あっ、勇者様! 探しておりました!」
「ん?」
中央教会を出て城門へ向かうと、門番の兵士が突然声をかけてきた。
「さあ、こちらへ。勇者様方のご到着をお待ちです」
「はあ」
どういうことだろう?
フードも被っているのによくわかったな。それに方ってことは、レナも一緒に来ることがわかっていたということか?
まあ、案内を頼む手間が省けていいや。下手に目立ちたくもないからな。
兵士に付いて行き白亜の建物は入ると、そのまま階段を登り上の方へ向かう。上階層は王族の住まう場所となっている為、おそらくサーヤのところへ向かっているのだろう。
「俺たち、来ること知らせてないよな?
「ええ、そうね。誰かが知らせてくれたのかしら?」
「でも誰が?」
「さあ」
うむむ、まあ、着けばわかることだ。
「到着致しました、では私はこれで」
「どうも」
やはり、見慣れた扉の前に俺たちは案内された。
引率してくれた兵士は門番の近衛兵に敬礼し、立ち去った。そして近衛兵が扉をノックする。
「はい、どうぞ」
内側から、侍女が扉を開ける。俺とレナは、出来るだけ顔をあげないように扉をくぐる。
「王女殿下、勇者ヒジリ以下二名、参上仕りまして候」
跪き、俺が代表して身分を述べる。
「はい、ようこそいらっしゃいました。貴方達、一度退室していただけますか」
「御意に」
サーヤが一度手を打ち鳴らすと、部屋にいた侍女達が速やかに退室し、部屋には俺たち三人だけとなった。
「もうお顔を上げてもらっても結構ですよ?」
「では、遠慮なく……」
そう言い、俺たちは立ち上がる。
「お久しぶりですね、レナ。ヒジリも、昨日……いえ、今朝ぶりで」
「ええ、お会いしとうございました、サーヤ様」
「お、おう……」
昨夜からのことを思い出して、恥ずかしい気分になる。サーヤも、俺と目があった瞬間顔を赤らめたように見えたが、すぐに目を逸らした。いかん、昨夜のことを思い出してしまう。落ちつけ、俺の俺!
「それで、何か御用があるのでは?」
サーヤは、レナのことを見据えそう言った。
「用があるのはそっちではなくて?」
「まずはレナさんの方からお聞きしたく」
「そう、わかったわ。ええ、勿論たっくさんあるわ。あ、今更敬語なんて不要よね? あの手紙、一体どう言う意味かしら? お姫様ともあろうお方が、随分と下品な文章でなくて?」
と言い、レナは挑発するように口角を上げた。
「あの手紙はお読みいただけたようで、良かったです」
サーヤも、微笑み返す。が、なんだか目が笑っていないように見えるのは気のせいか?
「ええ、もちろん! 一字一句こぼさずにね! あんた、昔から言うときははっきり言う女だったわね。未だにヒジリにバレていないことが不思議なくらいだわ。まあ、こいつは鈍感だから仕方ないだろうけど」
「うふふ、ヒジリは素晴らしい男性ですよ? それに、バレていないのは私が頑張って隠していたからです」
て、照れるな。俺にバレていないって、サーヤのなにが?
「へえ、そう。でも良かったわけ?」
「手紙を出した時点で、既に覚悟しておりました。婚約者ですから、いい加減私のあらゆるところを知っていただきたかったので。特に昨夜は契りを交わしましたから、タイミングとしても申し訳ないかと」
「へ、へえ。そう」
レナは少したじろぐ。やめてくれ、俺も恥ずかしい。
「それに、手紙を読まれた後、きっとお二人は揃って私のところへいらっしゃると確信しておりましたし、どのみちいつかはケリをつける必要があるでしょうからね」
確信していただと? えらい自信だな。ケリをつける……なんのだろうか。
「へえ、何故ここへ来ると?」
「それは、あんな手紙をもらって黙ったままやり過ごす女性はこの世の中にいないでしょうから。それに、まさか私があのような文を書くのかと、ヒジリは疑うでしょうからね」
「確かに、あんたの言う通りだわ。すっっっっごいムカついたもの!」
「ああ。俺もびっくりしたよ」
「あんたは黙ってて」
「はいっ……」
レナさん怖い。
「あらあら、怖い顔ですこと。ヒジリが怯えてますわよ? ふふ、レナさん。それは良うございました、私の思い通りになりましたね」
「癪に触るけど、そのようね……じゃあ、あのような文を書いて、あえて私を挑発したと?」
「だって、戦争に宣戦布告はつきものですから」
宣戦布告……? 誰となんの? レナと、と言うことか?
「戦争……なに、あんた私とやり合いたいわけ? もうあなたのものになったも同然じゃない、悔しいけれどね」
「勿論。いい加減、白黒つけませんこと? 私とヒジリのアレコレは今は関係ありません、レナさんと私、どちらが相応しいかという話ですから」
白黒? 相応しい? なんのことだ?
わからん、頭がパンクしそうだ! 俺もサーヤがなんだって? 二人は一体、なんの話をしているんだ。レナはサーヤが何を言いたいのかわかっている様子だが。
「白黒、ね。つまりはヒジリに選んでもらおうというわけか」
俺が選ぶ? 戦争なんだよな?
「結婚は双方の同意あってこそのものですから」
え、結婚の話だったのか? でもそれに戦争という言葉はとても似合わないと思うのだが。
俺が結婚を選ぶ……
ちょっと待て、今までの話を整理すると、まさかとは思うが、サーヤとレナ。どちらが俺の結婚相手相応しいかを選ぶ、ということなのか?
「それと……」
「なによ?」
「ヒジリさんが先程から爆発しそうになってますから、きちんと説明して差し上げませんとね。レナさんが黙れ、なんておっしゃるからですよ?」
「ふんっ、馬鹿な馬鹿ヒジリがバカバカなんだから、私のせいじゃないわよ」
「おい、ひどい言い草だな! それにサーヤ、なんとなくはわかったぞ。でも、話を整理はできたが、まだ理解が追いついていない」
バカバカ言い過ぎだろおい!
「無理もありません。なにせ、ヒジリさんは全く気付いていらっしゃらない様子ですからね」
「ええ、そうね。非常に悔しくて残念で、怒りを覚えるけどね!」
レナが俺のことを睨みつける。
「え? な、なに怒ってんだよお前。俺がなにに気づいていないって?」
「そ、それは……えと、その……」
「なんだよ、急に俯いてブツブツと。怒ったりしおらしくなったり変なやつだなあ」
「仕方ありません、ご自分の口で言えない、というのであれば、私が教えて差し上げましょうか?」
「ま、待って!」
サーヤがそういうと、レナは顔を上げそう叫んだ。
「……ふう、やっと覚悟を決められましたか?」
「……ええ、言うわよ。言えばいいんでしょ。ヒジリっ!!」
「は、はいっ!?」
「わ、わたしは」
「あ、ああ」
「私、レナは!」
「おう、なんだよ」
「--あんたのことが、ヒジリのことが好きです!」
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