母親二人
「へえ、すっかり大人の女になったねぇ!」
「えへへ」
母さんは俺そっちのけで、レナの母親と二人してレナのことばかり褒めちぎっていた。
あの、俺のことさっき、たった一人の〜とかなんとか言ってませんでした?
「母さん、あの……」
「ふむふむ、なるほど。すまないね、うちの馬鹿息子ったらほんと鈍感で!」
「いえ、そんな」
「おほほ、男の子は我が道を往くくらいが丁度いいんですよ?」
「そうでしょうか、うふふ」
おい母さんや、あんた口元に手を当てて"うふふ"とかいうキャラじゃないだろう。尻掻いてぐふぐふ笑ってる方がお似合いだぞ。
それにレナ、調子を合わせて旅の間の俺のことを告げ口するんじゃない。さらにその内容も何故か、俺とこいつが喧嘩した時のことばかりだし……なんなの、俺のことやっぱ嫌いなの? いやあ、薄々そんな気はしていたけど。
こいつは、何か少しでも自分の気に食わないことが起これば、すぐ俺に愚痴をこぼすんだ。
でも女の子なんてこのガサツな幼馴染と婚約者以外知らない俺は、足りない頭と少ない経験値を振り絞ってなんとか宥めようと返答するんだが、何が気に食わないのかいっつも怒って返してばかりだもんなあ。
更に、俺の悪口を言うときはなぜか毎回楽しそうときた。
やはり俺のことが嫌いだからこそ、そう言う態度を取るのだろう。
たまにかわいいところを見せたと思ったら、また生意気な幼馴染に元どおり。これじゃあいくら身体が成長しても意味がないぜ。
「なあ、母さん。母さんってば」
「あら〜、そうなの! ……なんだい馬鹿息子! 今とても大事な話をしているんだい、邪魔だからどっか行きな!」
「はぁ? なんだよそれ、せっかく愛息子が二年ぶりに帰宅したって言うのに、その扱いはないんじゃないか?」
「今はレナちゃんの話を聞くのが大事なんだよ! あんたもう十二歳になったんだろう? 少しは親離れしな、お子ちゃまだねぇ」
「ぷくく、ヒジリはお子ちゃまっ!」
「なっ!」
レナの奴、さっきまで手紙がどうのと怒って泣いて好き勝手していたくせに、今はけろっとしてやがる。これだからいつまでたっても女扱いされないんじゃないのか?
ちったぁしおらしくしたらどうなんだ。
旅先で寄った町や村でも、見た目だけは可愛くて華奢だからか、そこらへんの町娘と同じ扱いを受けることが多かったんだが、その度に「女の子扱いしないで、私は勇者と共にいるのよ!」とかなんとかよくわからないこと言っていたし。
後に「じゃあ男の子になるのか?」とからかってやったら、その後三日間は口を聞いて貰えなかったこともあったな。
ほんと、そう言う短気なところ、直した方がいいぜ?
「お前こそ、さっきまで外で泣き腫らして「わーわー!!」いた……どうしたんだい急に? レナ、はしたないよ」
「いや、だって、その……」
ふむ、成人しても、母親の言うことは素直に聞くみたいだ。今度からは母ちゃんに言いつけてやるぞ! といえば少しはおとなしくしてくれるだろうか?
「そういえば、さっきはなんで泣いていたんだい?」
「えっ?」
えっ。
「いや、私が外に出たのも、あんたの泣き声が煩かったからなんだ。その原因を聞いていなかったと思ってね。結局あのとき、何があったんだい?」
「ああ、そういえば、うちにも聞こえていたような……どこかのお子さんがこけでもして泣いているのかと思ってそれほど気に留めなかったけど、あれはレナちゃんだったんだねえ。一体何があったんだい?」
うちの母親も乗っかってきてしまった。
おい、レナ。絶対に、いらないことを言うなよ!
俺は目線で合図をする。と、わかってくれたのか一つ頷いた。ふう、これで大丈夫だろう。
「あの、実は……こいつ、じゃなかった。ヒジリが、その……お、男の子から、おおお男になったらしいんですっ」
おいいいい!
今、頷いたよね?
わかったって顔したよね!?
なんでバラしちゃってんだよぉ!!!
「まあ!」
「あらっ!」
ほら、二人ともあらあらまあまあって顔してるじゃねーか!
これ今から質問責めにあう展開だよね?
「そうかいそうかい……ヒジリもついに……ヨヨヨ」
「やめろよ母さん! なんで涙を流してハンカチで目元を押さえてるんだ!? それにヨヨヨとか言うキャラじゃねえだろ!」
「それで、相手は!?」
「そうそう、それが一番よね!」
「立ち直り早っ!」
しかも母親二人とも、俺はちょっと揺すったくらいじゃ話さないとわかっているのか、俺ではなくレナに訊ね始めた。
喋るなよ! 絶対だぞ!
再び視線を送ると、レナはうなずいた。
うむ、今度こそわかってくれただろう。流石にそこまで馬鹿じゃないと信じているぞ。
「えっと、姫様です」
「えっ!?」
「あらあらっ!?」
馬鹿でしたー。
「その証拠は、ここに……」
更にレナは、違法薬品を取り出すかのように、無駄に育った無駄に使い道のない無駄な胸元から封筒をさっと取り出し、机の上に置く。どんなとこに閉まってんだよおい。
「これは……間違いなく、姫様の紋章ですわね」
「ええ、そうですわね」
二人とも旦那が貴族だ(った)からか、一応その手の知識はあるようで、一目で見抜いたらしい。
母さんが、俺のことをゴミを見る目で睨みつける。
な、なんだよ。何か悪いことをしたみたいじゃないか!
一応、子作りしていい年齢なんだぞ! ま、まあ、そんなことはしてないから関係ないけどな!
「開けてもいいかしら?」
「ええ、どうぞ。煮るなり焼くなりお好きに」
お好きにさせてどうすんだよ!
もう見てられねえ、証拠隠滅だ!
俺は慣れた右手……はまだ使うのが怖いので、左の掌に魔力を貯める。
「<炎よ!>」
と、火の塊が手紙に向かって飛んでいく。ええい、ちょっと大きすぎたかもしれないが、この際仕方がない!
……が、直後。何かに阻まれるように、火の塊は空中で四散した。
「ふふん、あんたの行動なんか、お見通しよ!」
「なっ、まさか……<防御>を使ったのか、この一瞬で!」
くっ、なんという魔法展開力。
「あったりー! それにこんな狭い家屋で火を出すなんて、あんた本当に馬鹿なんじゃないの?」
「お、お前に言われたかねえよ! 仕方ねえだろ、これを消せば、お前の口頭だけじゃ、証拠にはならないはずだ! 背に腹はかえられねえ! 文字通り俺の首がかかってるかもしれないんだぞ!?」
「うっさい、ばか、変態はさっさと死ねば? 十二歳の女の子と、その、す、すすするなんて、とんだ幼女性愛者ね!」
「誰が変態だ! それに国法で十二歳以上は子作りしていいことになってるんだぞ? して何が悪い!」
「な、あああなたねえ、自分が何言ってるかわかってんの!? みんなあんたのことを心配して、少しでも心と身体が休まるように、婚約者とゆっくり話ができるよう気を遣ったのに! それに今、認めたわね! 姫様としたこと、認めるのねっ!」
「あっ……み、認めねえよ! 今のは言葉の綾ってやつだろ!」
「うっさい変態勇者、さっさと国王陛下に首刎ねられてこいっ!」
「おいこら、今一番気にしていることを口にするな、本当になってしまったどうするんだよ!」
「ふんっ、そうしたら、みんなで祝杯でもあげるわ! 裏切り者死すってね!」
「なっ……! この、性悪女め!」
「誰が性悪よ! あんたなんか性欲最悪だわ」
「この、言わせておけばっ」
「そっちこそ、人の気も知らないで」
「ぐぬぬ!」
「むむむ!」
「「二人とも、そこまで」」
「「あいたっ!!」」
俺たちが睨み合っていると、互いの母親に頭を叩かれてしまった。
「手紙は読まさせてもらったわよ。さて、ヒジリ。どういうことかきっっっちりと説明してもらいますからね!」
あ、詰んだわこれ。
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