第12話  本当のこと

 別に人を助けたくて、助けたわけではない。ただ助けなければとあの時ただ思っただけだ。

 クルミは一度だって、人のことを考えたことなんてない。ただ寂しかっただけ。自分が一人きりになるのが嫌だっただけだ。


「まだ寝てるの?」

 少女の声がする。

 クルミは今のまま目覚めたくない。目覚めたらつらいことばかりだ。永遠の孤独。

 本当のことを知るよりはいい。

誰かの手が、クルミの頬に触れる。

「大丈夫」

クルミは何者かに抱きしめられる。

おやすみ。



クルミが目を開くと、そこには少女がいた。そうそこには少女がいた。クルミの脳裏の記憶にあるままの姿の少女。

 クルミが男の姿になる前の、鏡に映っていたクルミの姿そのままの少女。


 クルミの姿をした少女は微笑んだ。

「初めましてだね、クルミさん、だっけ。俺の名前は池田卓。その体は俺のものだ。返してほしい」

クルミは凍りついた。

「何故?私はどうして、ここにいるの?」

呆然と、クルミは問いただす。卓は困った顔で、微笑む。

「それは君自身が知っているはずじゃないの?」

「私自身」

「すべては君が俺の体を奪ったんじゃないか?さぁ、俺にその体を返してくれ」

 少女は笑う。そして、クルミに向かって、その手を差し出す。その手を見て、なぜかクルミはぞっとした。


「まちなさいよ」

 紅の冷たい声がその場に響き渡る。

「なんだよ?」

微笑む卓が、紅のほうを見る。

「クルミが本当にあなたの体の持ち主なのか、まだわからないじゃない」

「俺が偽るとでも?」

「さぁね?」

「当事者でもわからないことを、今言っているじゃないか。それにそんなこと偽っても何の得になるんだ?家に帰れば、アルバムとかあるし」

「気になります」

紅が瞳で卓の思考を探ろうと、瞳から暗示を試みる。

「なにが?」

「何故あなたがここにいるの?クルミの居場所は何故わかったの?ここは魔術師以外が気軽に入れる場所ではないのに」

「ああ、それ?来宮獅子って変わった名前の人に聞いたんだよ」

来宮獅子、その名前をクルミは知っている。

それは


次の瞬間、爆発が起こり、学園が揺れた。


「大変。学校の結界が破られた。悪魔が入ってきたみたい」

 金髪の美女があらわれていう。


「悪魔本人が言うだなんて、たち悪いわね」

 紅は金髪魔女に向かって、自分の血を吸わせた短剣を投げつける。金髪美女はにこりと笑いながら、片手で短剣を受け取る。

「あら、素敵。血を吸う魔女の祖先ね、あなた。よく知っているわ。私はエヴ。血を吸う魔女の一族のあなたも短命なはず。私と契約すれば、永遠の命もありえるわよ」

「おおきなお世話。悪魔が何しに来たの?」

「ご主人様に言われて、あなたを迎えに来たのよ、クルミちゃん。来宮獅子様がおよびよ」

「お断りよ」

紅がクルミの前に立ちふさがる。

「あなたに聞いているのではないの。邪魔するのなら死んで頂戴」

女の体から大量のくもが這い出てくる。

「私のペットは人間の肉が大好物なの」

「ひげえええええええええええ!!俺くも苦手なんだよ!!」

卓が悲鳴をあげる。

「うるさい!死にたくないなら、黙って私についてきなさい!!」

 紅はどなりつけて、走り出した。

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ヘヴン フラワー 赤沼たぬき @duhiyutou

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