第8話神憑きと、悪魔憑き

 激しい虚脱感に、クルミは膝をつく。クルミのもとに黒い大型の犬が駆け寄ってくる。

 黒い犬は紅のもとにいた犬にそっくりだ。犬はクルミに、頭をすりつけてくる。

クルミの目の前には、半透明の美しい髪の長い女が立っている。

「あなたは?」

クルミが問いかけるも、半透明の幽霊のような女性は何もこたえない。


「その女性は神様よ」

 紅の声に、クルミはあわててそちらの方へと、顔を向ける。

そこには無事な様子の紅が、平然と立っていた。クルミは安堵で、泣きそうになる。

「紅さん!無事だったの?」

「ええ、大丈夫です」

 片腕をなくしたはずの紅なのに、なぜか両腕はついていた。魔術かなにかなのかと、クルミはその時あまり気にしていなかった。


「昔から善なる強い意志を持った人間が、その意志をあらわすと、神憑きと呼ばれる状態になり、異次元の神という存在を具現化することがあるの。

悪魔憑きは悪魔が憑いた状態だけれど、悪魔は外部から呼び寄せることがおおいから、神憑きとは少し違うわね。同じだという見解もでているんだけど。学会のなかでも意見がわれている。まぁ、今は関係ないわね」


紅のそばにいる黒い犬が吠えて、紅は黒い犬を撫でる。


「神様?」

「そうあなたが生み出した新たな神よ。あなたが名づけてあげて」

「私が?」

「あなたしか名づけられないわ。あなたがなづければ、その神はあなたを守ってくれる」

「いらない。神なんて。でも、紅さんを守ってくれるなら、必要かも」

そういうと、紅の顔が真っ赤になってしまう。

「大丈夫?顔が赤いよ」

「うるさいです!私は、その、大丈夫。悪魔憑きだから」

「え!?」

悪魔という言葉に、クルミは驚く。

「神も悪魔もようは使いようよ」

 紅は、美しい異次元の女神を見上げる。オーラがすごい。その前に立つだけで、紅の呪われた体にはきつい。


 『ご主人様、名前を』

どうやら女神がクルミに名前を催促しているらしい。クルミは迷った末に、目の前の女神をこう呼ぶことにした。

「花」

天国で見た花の名前を忘れないように。


「ここは危険です。私たちの学校に行きましょう。そこなら安全よ」

「学校?」

「そう、魔術師の学校。あそこなら、一般人は結界に阻まれて入れないから」

 歩き出す紅の後ろを追いかけて、クルミは歩き出した。

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