第7話 願い

 虚無から有限へ。クルミはいつだって願っていた。クルミの全身を食らう影。クルミはなぜか冷静に思う。全身を満足するまでたらふく食わせてやろうと。


「何をしている?さっさと食え。今度はもっと若い女の肉をやるからな」

ヒヒっと、ひきつった甲高い笑い声を男があげる。


 存在すべてを食らいつくす影。なぜかその正体をクルミは知っていた。生き物にはなりきれなかった深い影。魂をもたないその存在は、人間を食らいつくすまで終わらない。

ならばクルミは満たしてやることにした。クルミの能力は、存在することなのだから。

願いはなんだと、白花は言った。

クルミは自らの手を見る。そこには白い花の紋章が描かれている。白花の笑顔が思い浮かぶ。すると、白い花が、クルミの手の中に生まれる。そして、紅の顔を思い浮かべる。

『なんじ、何を願う?』

 不思議なおんなの声が聞こえる。クルミの願うことは一つだ。


 死を食らいつくす、たてがほしい。


『了解した』



「さて、馬鹿女のほうに行くか」

そう男が言った瞬間、背後に立っていたクルミの剣が、男の心臓を貫いた。

「がっ!?そんな、馬鹿な」

「あなたが何者かはしらない。だけれど」

クルミは剣を持つ手に、力をこめる。

「死んでくれ」

「きさま!何者だ!!!」

「人間だ」

すべての虚無のものを食らいつくす。

「化け物め!」

「さようなら」

「死ね!!」

男の背後から出た黒い影が、またクルミを襲う。

「また死ね!!」

男のあざ笑う声が、響き渡る。

「悪い魔に入ってしまった哀れな魔を打ち払うたてになろう」

クルミの背後から女の姿が浮かぶ。

クルミは剣をふるう。

影は悲鳴を上げて、一瞬で幻のように消えた。

「まさか、お前、神に、なったのか」

驚愕の表情をした男の顔が、クルミを見る。

「私は神様じゃない」

ただの人間だ。

「覚えておけ、次は殺す」

男は地面に吸い込まれるように、消えていくのだった。



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