第6話 死と対価
なぜ?こんなことに?
クルミはただ天国が見たかっただけだ。苦しみしかないこんな世の中に、何もない国を夢みただけなのに。
気が付いたら死ねずに、なぜか見知らぬ少年の体になっていた。しかもこんなに全身を食われる激痛を味わうことになるなんて、
「大丈夫?」
幼い少女の声。
クルミは気が付くと、白い花畑に横たわっていた。ここが天国なのか?全身にあった痛みがない。
クルミが目を開けると、不思議そうに、十歳くらいの少女が、クルミの顔を覗き込んでいる。
「あなたは?私はクルミ」
見知らぬ少女のはずなのに、少女のことをなんだかとても懐かしいような気がする。
「私、は、名前がないの」
「名前が?」
「うん」
「そうなの?」
「クルミに名づけてほしいな」
「私に?」
「うん」
にっこり少女が笑う。
「私でいいの?」
「クルミがいいな」
「そう」
しばしクルミは目の前の愛らしい少女の名前を考える。
「そうだね、ここは白い花がたくさん咲いているから、白花って呼ぼうかな」
「ありがとう!」
にこにこ本当にうれしそうに、少女はしている。クルミが考えた程度の名前がそんなにいいのか?
「白花、ここはどこなの?」
「ここは狭間みたいなところ。天国に行けなかった人の集まるところなの。クルミもなにか心残りがあるから、ここにいるんじゃないの?」
「ない」
「そう、なの?」
なぜか泣きそうな顔をする白花。
「私は天国が見たかった」
そうなにも心残りなんて、なかったのに。クルミの心の中に、あの紅という少女がが思い浮かぶ。
クルミの体は男になってしまい、心まで影響されたのか、わからない。けれども紅のことを放ってけなかった。
「まだ死ねない」
はっきりクルミはそう意思表示した。今まで生きた中で初めてかもしれない。
「そう」
にっこり白花は笑う。
「ならクルミにこれをあげる」
白花はクルミに一本の白い花を差し出す。
「クルミの能力は特異点だってところ。不可能だって、可能にできるんだよ。人の生き死にだって、きっと変えられる。願いだって無限に叶えられるよ」
白い花はクルミの手の中で、変質して消えていく。
「じゃぁね、クルミ。もう二度とここにきちゃだめだよ」
にっこり少女はまた笑うのだった。
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