第4話 魔術師のこと
紅は政府が魔術師を抹殺しようとしていると言ったが、そんな平和なこの日本であり得るのか?
クルミは内心首をかしげる。
紅は話を続ける。
「昔から魔術師は存在していたの。でもそもそも不思議な力とか使う存在ではなかったの。野花を用いて、病で悩む人を癒すの。それが最初の魔女の始まりだった。人々は最初こそ、魔女に感謝したけれど、あとは知っての通り、魔女狩りの始まり。魔女の意志をうけついだのが、のちのち魔術師とも呼ばれていたんだけれど。
魔術師は最近まで人を助けるためのありとあらゆる研究をしてきただけだった。けれどある時から、変わった。
呪いのようなただの守りの言葉から、幽霊が見えるようになったの。そもそも私の血筋の魔術は、人の血を使って、人を治す民間療法を生業としていたのだけれど、私の血液から、死んだ犬が生き返るようになったの。ううん。それだけじゃない。古代から伝わる真の言葉で、元素まで操れるようになった。それだけならよかったのだけれど、一部の魔術師が、それを悪用して、人を殺してしまった」
紅は鎮痛な面持ちで、自らの掌に浮かぶ赤い火を見る。
「それからは魔女狩りと同じ。人は私たちを恐れて殺そうとした。今はまだ日本の政府は表向きは私たちを保護という詭弁を言っているけれど、もう何人も私たちの仲間は殺されてしまった」
なんて反応していいかクルミは困ってしまう。クルミはそもそも人の死を悼むような心はもっていない。人を憐れむことはない代わりに、人をいとおしむ心もない。たとえ自分が死んでも、同じだ。
「ねぇ、あなたはいくつですか?私は今十四歳なの。人から隠れて、魔術師の専門の学校に通っている。あなた、....見たところまだ私と同じくらいに見えるけど、一緒に魔術師の学校に来ませんか?」
「魔術師でもない正体不明な人間を、そこに呼ぼうなんて、危険じゃないですか?」
そういうクルミの顔に、紅は黒く真紅に光る眼を向けた。
「さぁ、どうしてでしょうね?私、人の魂が見えるから。あなたは綺麗なみょうちくりんな魂をしているから?」
「みょうちくりんって」
「冗談です」
そういって笑う紅のきれいな顔に、クルミはなんだか胸をうたれた。何者かもわからない自分自身。不安定な存在のクルミの心のうちに、紅という存在はとても美しい存在だと染み入ってきた。
紅のこちらを見つめる美しい赤く光る瞳を、クルミはただ見つめる。静かな時間の静寂を、家のガラスが割れる音が終わりを告げた。
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