第3話 白い花の魔術師

 辺り一面には白い花が咲いている。花畑には一人の幼い少女が立っている。クルミは首をかしげた。


「あなた誰?」


クルミの問いかけに、何も幼い少女は答えず、白い花をクルミに向かって差し出した。

クルミはただ立ち尽くしているだけだった。


 「夢?」

 クルミが目が覚めると、そこはみしらぬ天井だった。

「おはよう。大丈夫ですか?」

 犬を撫でている美少女が、クルミの前にいた。クルミが犬をかるく蹴った時の印象とは違い、敬語で物静かそうに見えた。


「私は坂本紅。あなたは?」

「私はクルミ」

自分の喉からでる低い声は、やはり男そのものだ。クルミは女なのに。

「クルミねぇ?」

 紅は首をかしげる。

「救急車を呼ぼうかどうか迷ったんだけれど、私、命狙われているから、私の関係者だと思われたら、あなた殺されちゃうかもしれないですから」

「命を狙われる?」

「そう、私魔術師だから」

「魔術師?」

そんなファンタジーの世界が、クルミはあるわけないと思っていた。


「魔術師のこと知らないなんて、あなた田舎者なんですね。そうね、でも知らないひとのほうが多いのかもしれない。政府も箝口令しいているから。でも形骸化していると思っていた。

魔術師はね、おとぎ物語ではなく、本当にいるんです」

 紅はナイフで地面に血を垂らすと、犬が表れる。

「私は血であらゆるものを具現化する魔術師暁の一派なの。魔術はあらゆる人間の願望をかなえるものなの。けれども全員の人間が魔術をつかえるわけではない。だから魔術をつかえない人間たちは、私たちを恐れて、今の政府は私を魔術師をとらえるか、抹殺しようとしているの」

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