人参をあげても仲良くなれない


 馬となかなか仲良くなれないから、せめて人参だけでもあげて、ご機嫌とっておこうかしら? と考える人は多い。

 でも、人参をたくさんあげる人は、なかなか馬と仲良くなれない傾向がある。まぁ、不思議なことに……。

 だいたい馬に噛まれるのも、人参を配る人が圧倒的に多い気がする。


 もちろん、例外もある。

 人参を上手に使って色々調教する人もいる。

 だが、人参をあげても、だいたいは人のほうが満足するだけで、馬のほうは「もっとくれ!」という要求を突きつけてくるだけで、その人のいうことを聞こうとはしないのだ。

 ぶひ……と鼻を鳴らし、前かきして、まるで「私を待っていてくれたの?」と思いたいかも知れないが、待っているのはにんじんだ。

 そして、あげる本人も「どうせ私じゃなく人参を待っている」と、どこかで自虐的だ。


 人参をあげる時は、気をつけないといけない。

 馬は人間の指を噛み切る力をもっている。実際、そういう例も知っている。

 仲良くなりたくて人参をあげているのに、噛まれたりなんかしたら……精神的ダメージも大きくなる。


 人参を配って歩く人は、どうして馬と仲良くなれない場合が多いのだろう?


 多分、馬が喜ぶようなこと、嫌がるようなことを、探る努力を「人参」で全て解決しようとしてしまうからじゃないのかな? と思う。

 人参さえあげていれば馬はご機嫌だ、と考えて、それ以上、及ばない。

 嫌がるようなことをしても、人参をあげれば帳消しになると考えてしまう。

 そこのところを理解しているかどうかが、ひとつの分かれ目と思う。

 馬の心理を知って人参をあげている人と、何も知らずにあげている人とでは、また違うのだ。


 ホースセラピストの宮田氏の映像に、人参をあげるシーンがある。

 それが、まるで犬のごとく、待て! をさせてからあげる、というものだ。

 試しにシェルでやってみたら、すぐにできた。

 シェルは、育成でいた施設がナチュラルホースマンシップを取り入れていて、宮田氏にもその指導をしていたという話なので、もしかしたら、経験があったのかも知れない。

 ところが、他の人に「シェルに待てをさせてから人参をあげて」と言っても、半信半疑なのか、やらせる気がないのか、待たせることができないのだ。


 犬には「待て」をさせる人も、馬に「待て」をさせるのは、かわいそうだ、と考えるようだ。

 だが、馬の欲望の前に、リーダーである人の命令が優先され、我慢を覚えるということは、安全な乗馬をするには、とても大事だ。

 不思議なことに、馬上にあれば、馬に我慢を強いる人も、馬から降りると身勝手を許す……という人が多いように感じる。

 馬に上手に乗れる人はまだいい、上手に乗れない人は、せめて、馬の下にいる時くらい、馬を従わせるべきだ。


「人参をいっぱいあげたのにいうことをきいてくれない」

 と嘆くのはやめよう。

 あなたは、馬の欲望を満たしてあげただけで、馬に自分の命令に従うことを教えていない。命令すらしていない。

 命令する、従う、命令する、従う……その繰り返しで、馬と人の関係は築かれてゆく。

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