約束事は常に守る、守らせる


 私は、常に馬のリーダーだ、従え! と力んでも、まぁ、そうそううまくいかない。

 家庭にある人は親を子を、仕事にある人は上司を部下を、見てみればわかる。

 リーダーシップを発揮して、他人を導くというのは、たとえ、自分の子供であっても部下であっても、とても難しいものだ。

 ましてや、異種である馬だぞ? そんなに簡単であるはずがない。


 部下のいうことをよく聞き、理解しながら導く人もいる。

 怒鳴りつけ、恐怖で支配する人もいる。

 優柔不断で、逆に、部下から信頼なく、従ってしまう人もいる。

 自分はリーダーだ! と虚勢をはるだけで、呆れられる人もいる。


 あなたはどういうリーダーで、どういうリーダーになりたいのだろうか?


 私は、馬から信頼され、心を許され、そばにいて嬉しいリーダーになりたいと思っている。

 だから、約束は守ることにしている。それが基本だと思うのだ。


 他人から見ると、くだらないかもしれないけれど……。

 これが終わったら、にんじんをあげよう、と言ったら、馬が言葉を理解していようがいまいが、約束したことになる。

 自分が決めて、心に誓ったら、それはもう「約束」だ。

 あと一回試みて、できたら終わり、できなかったら、もう一回。

 そう決めたら、もう「約束」だ。できたから、もう一回、やってみたい、試したい……は、禁物だ。


 これは、常に日常からずっと、ごく普通のことでも、必ず、だ。


 無口は、私からはかけない。馬が自ら顔を出す。

 自ら望んで私に従うよ、という意思表示を、常に求めるのだ。

 誰だって、無理やり腕をひっぱたれて連れてこられるよりも、自分の意思で従うほうが、ストレスがないだろう。

 呼んだらくる、も、同じ理由だ。馬の意思で、来るように仕向ける。


 馬房に戻って、すぐに飼い葉桶に顔を突っ込み、私に無口を外すのに苦労させることも、許さない。

 必ず待たせて無口をちゃんと外してから、食事するよう、決めている。

 引き馬で草を食べさせる時も、初めと終わりはけじめをつける。

 馬が食べるのを決めるのではなく、私が許可をしたから、自由になるのだ。


 だって、そうだろう?

 リーダーの指示に従わず、夢中で草を食べている馬は、肉食獣の餌食になる運命だ。

 群れの社会は、団体行動からはみ出した分、命の危険にさらされる。


 私の指示に従うことは、自分の命を守ることだ。


 馬がそう思えば、意外とすぐに指示に従う。

 おそらくナチュラルホースマンシップのデモストレーションが、まるで魔法のように簡単にできてしまうのも、そのためだろう。

 だが、問題はそれからだ。

 馬に、常にそのルールを、繰り返し、繰り返し、実践して、ルーティンにしなくてはならない。

「今日は、わがままさせちゃったけれど、ま、いいか」

 は、決して許してはいけないのだ。


 馬は、いつもと同じが好きだ。安心できる。

 だから、わがままをした日は、よくよく観察するべきだ。

 なにか、問題があることが多い。

 呼んでもこない……は、その後に待っている運動がいやだ、という意思表示で、運動がいやなのは、足がいたい、体調が悪い、かも知れない。まぁ、単にやる気がおきない、かも知れないが。

 馬は、いつもと同じが好きだから、違うことをするのは、訴えたいことがあるのだ、と思う。

 常にルールを守らせていると、いつもと違うことも見えやすく、大きな事故を未然に防ぐこともできるのだ。


 小さな約束をいっぱいして、それを守って、守らせて……。


 確実にしてから、行動を起こす。だから、失敗は最小限のはず。

 馬とおつきあいを上手にするには、たくさんの小さな成功例を積み重ね、小さな自信を積み重ね、自分はできると、心から信じられる自分になることだ。

 臆病者がない勇気を奮い立たせても危険なだけだ。

 これならできる! ということを積み重ねて、自信を深めれば、臆病に打ち勝つ勇気がもてる。

 

 いつも約束をまもってくれる馬に乗ることは、それだけで勇気をくれるのだ。

 


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