不機嫌は、いないないばぁー!
私が不機嫌であることもあれば、シェルが不機嫌な場合もある。
馬装でゼッケンを載せようとすると、毎度のことながら、みるみる不機嫌になってゆく。
耳が後ろに向くし、そもそも、私が台の上に乗ると、動く。台を移動させると、また動く。台を動かしたふりをして、なーんちゃって! で、ゼッケンを載せる。
それでも、馬装されるシェルは不機嫌だから、ご機嫌をとる。
つまり……。
なでなでなで……と、おでこを撫でる。
すると、ご機嫌になってきて、口をくちゃくちゃし始めるのだ。
これで、不機嫌の虫は、いないないばー! となる。
人間には触られて気持ちのいいツボがあるけれど、馬にもある。
その一つが額だ。そこを撫でると、馬は自然とリラックスしてくる。
撫で続けると、なでて、なでて、もっとなでて……になる。
あ、そうなんだ、じゃあ、やってみよう!
と、安易に思ってはいけない。
気持ちのいいツボではあるけれど、同時に、敵には触られたくない場所でもあるのだ。
馬の正面、目の前に手をチラつかせると、ガブッと噛まれる危険性がある。特に顔を拭かせたがらない馬は、正面への警戒心が強い。
人間だって、大好きな人にハグされれば嬉しいけれど、さほど面識のない人にいきなり抱きつかれたら……それはもう犯罪的に嫌だろう。
最初は横からそっと撫で、徐々に、あれ? 気持ちいい? と理解させて、警戒心をなくしてゆく。
撫でやすいツボは、きこうの横あたりにある。あと、腰の上あたり。
ブラッシングついでにぐりぐりしてあげると、馬の鼻が伸びてきて、時に、首を傾けるから、ここだな! とわかる。
乗る前に、お手入れをして、そのツボをマッサージしてあげると、馬はリラックスするから、安全度が少し上がるかも知れない。
それに、多分、あなたのことが好きになる。
ブラッシングして嫌がられた時なども、喜ぶツボをおさえていると便利だ。じゃあ、ここね、とツボをマッサージしてあげると、ああ、そこそこ……になってくる。そうなったら、またブラッシングを再開、また嫌がったら、そこそこ……を繰り返す。
シェルは、くすぐったがりでブラッシングが嫌いだから、すぐに、額をつきだして、「ここここ、やって」になる。
シェルにとって、私は気持ちのいい人だ。
ナチュラルホースマンシップを唱える人の中に、馬が顔を人にすり寄せるのは、リスペクトが足りないからだ、人を柱か何かだろおもっているからだ、という人がいる。
そうなのかも知れない。
でも、私はシェルとの付き合いの中で、柱だと思われているとは感じないし、甘えてきているな、とは思うけれど、リスペクトされていないとは感じない。
馬が顔を擦り付けてくるのは、運動後の汗をかいた時が多い。汗を拭きたいのかも知れない。
でも、頭絡のプレッシャーから解放されて、リラックスしたいのでは? とも思うのだ。
私も、帽子をかぶっていると、頭が痛くなって、外したら、頭をマッサージしたくなる。
だから、やっぱり乗り終わった後に、おでこをなでなでしてあげる。
私は、シェルのために毎回にんじんを用意するわけではないし、むしろ、おやつはあげない派だ。
その代わり、おでこをなでなでしている。
馬の気持ちのいいツボを押さえている人は、お手入れしていても、嫌がられたり、噛まれたり、蹴られたり……の可能性は低くなる。
一番最初に書いた警戒心満載の人にも、それを教えてあげたい。
でも、彼女は彼女の経験で、馬についてここまで学んだ。
私は、気のいい穏やかな馬を自馬にした、とても運のいい馬甘やかしおばさんだ。
馬はそんな生易しいものじゃない、シェルだけを馬だと思っていたら、とんでもない目にあうよ、と逆に言われてしまうかも知れない。
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