私はとても不機嫌だ、よく考えろ!


 私の尊敬する友人は、馬とものすごく仲良しだ。

 彼女ほど、私はまだ馬と仲良くはなれていない。

 だが、多分、同じ方法では仲良くなれない。なぜなら、パーソナリティが違うからだ。

 彼女は、常に穏やかな気を発する人で、それを武器にしている。

 ところが、私は感情の波が激しく、常に穏やかではいられないのだ。

 だから、私は、この感情の波の激しさを、自分の武器とした。


「ぎ!」


 この短い音は、私が「お前の行動が不愉快だ」という不満を表している。

 呼んでも来ない、足をあげない、無口を嫌がる、前かきをする、噛もうとする、威嚇する、などなど。


 私はお前の行動にとても腹を立てている、よく、考えろ!


「ぎ!」を三回言っても行動をやめないのなら、私の怒りは爆発する。

 蹴ったり叩いたりしても、文句はないってことだな? 

 シェルは、この方法で、私の言葉を理解した。

 シェルだけじゃない、あーこもだ。

 面白いことに、シェルは遊び心のある馬なので、私の怒りが爆発する寸前まで、無視をして見せたり、ふざけて見たりする。

 そして、ギリギリで、媚び媚びスリスリしてくるのだ。

 あーこはその逆で、むしろ、一発で従う。生真面目な馬だ。


 このルールを仕込んだおかげで、私は馬を叱ったり、叩いたりする必要がなくなった。

「ぎ、だよーん」と柔らかく言っても通じることがあるし、本気で怒りを込めて短く「ぎ!」と言うこともある。

 いずれにしても、二頭とも、「今、やっていることは不満に思われているからやめよう」と理解してくれる。

 だから、叩いたりしながら「ダメ!」と言わなくて済むのだ。


 逆に、噛んだり、蹴ったりという、人に危害を加えるような行動に出ない限り、いきなりは叱ったりしない。必ず、警告を与える……という方式が、常に、人間がいつ怒るのか? と、ビクビクしないで済むことになるからか、シェルはとてもリラックスしてくれる。

 シェルは、噛んだり蹴ったりはもともとしない馬だから、私がいきなり叱ることは、めったにない、ということになる。

 馬も叱られるのは嫌だし、私も常に叱り続けるのは嫌だから、本当にリラックスできるのだ。


 そして、めったに使わないのだが、この「ぎ!」は、乗っている時にも効果を発する。



 この方法は、ナチュラルホースマンシップで「1、2、3」でだんだんトーンのように指示を強める、すると、1という軽い指示で反応するようになる、という話を聞き、参考にしたものだ。

「ぎ!」を三回というのは、「1、2、3」の名残りだ。まぁ、仏の顔も三度まで、ともいう。


 カリスマドッグトレーナーのシーザー・ミランの番組を見て、彼が「しっ!」と一言で犬を大人しくするのを見て、あれ? 似ている、と思った。

 これは、誰がやっても効果があるわけではないらしい。

 私の「ぎ!」も、全ての馬に効くわけじゃないし、その意味を理解させるためには、最初は強く出なければならない。

 それに、おそらく、感情に波があり、すぐに気持ちが態度に出る人間だから、そのオーラで通じるのであって、穏やかな人には向かないかも知れない。


 優しい穏やかな人は、その人なりに、何か方法があるはず。

 私が自分の方法を見つけたように、きっと、会話する方法を見出せると思う。



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