毎回、ハッピーエンド


 騎乗したら、毎回、ハッピーエンドで終わりたい。

 嫌な気持ちで終わったら、次に馬に乗るまで嫌な気持ちのままでいる。

 それだけじゃない。馬も嫌な気持ちのまま、馬房に戻るのだ。


 よし! 次も一緒に頑張ろうね!


 そう思えるように終えるのがいい。

 よくやった! と、馬を褒めながら、ニコニコ笑顔で終えるのがいい。

 馬は繊細な心をもっている。

 がっかりして騎乗を終える時、馬の精神的ダメージはその倍はある。


 悪い状態で終われば、次の騎乗が憂鬱で仕方がない。

 いい状態で終われば、次の騎乗が楽しみだ。


 一番悪いのは「まぁ、いいか……」で終わることだ。

 馬は生き物だし、いつまでも乗っているわけにはいかない。

 やりたいことができないまま、終わってしまうこともある。


 そんな時に、自分はくよくよ悩まない、まぁ、いいか……で切り替えて気にしない……って人がいるけれど、それは前向きとは言わない。

「まぁ、いいか」で終えると、馬も「まぁ、いいんだな」で終わる。

 そして、こういう人に限って、できる時はとことん調子に乗りすぎてやってしまうのだ。

 調子のいい時に「もっとやれ、もっとやれ!」になると、馬は「これじゃだめなのか? まだオッケーじゃないのか?」と迷い始める。

 プレッシャーから解放することが、馬を褒める方法なのに、いつまでも要求がくることになってしまう。

 そして、馬はくたくたで、頑張っても疲れるだけだ……と思うようになる。


 ある馬術家は、馬が十分期待に応える運動をしてくれたら、運動をやめるだけではなく、馬を降りて引き馬で戻るそうだ。

 そこまでしなくても……とは思うけれど、良い状態で切り上げる、ハッピーエンドにすることは、人馬共にいいことだと思う。



 落馬したら、すぐに乗れ! と言われる。

 これは、けしてしごきではなく、馬のためだ。

 ただし、最近は、脳震盪などの危険性もあり、必ずしも、すぐに乗れ! とは言われないご時世になってきたが。


 人が落ちると、馬は背中が軽くなり、楽になる。

 ああ、人を落とせば楽になるんだな……と学習させないためだ。

 人を乗せるのがハッピーな馬は、むしろ、人が背中からいなくなると、不安になって、様子を伺いにくる。再騎乗してあげると、安心する。


 私は臆病だけれど、落馬したら、自分の身に不安がない限り、再騎乗するようにしている。

 それが馬によりベターだと思うからだ。



 どうしても駈歩ができない。

 馬も人も疲れてきた。

 そんな時は、ここからここまで駈歩できたら、今日は終わりにしよう! という目標を作る。

 その目標を達成するまでは、絶対にやめない。でも、達成したら、すぐに馬を褒めて、運動を切り上げるのだ。

 そうしたら、少しだけの駈歩ですら、目標達成というハッピーエンドにできるのだ。


 馬も人も大満足で終えられる。

 いつもはもっとできるかも知れない。いつもできていることができていなかったかも知れない。

 でも、あなたも馬も「まぁ、いいか」といい加減な気持ちで切り上げなかった。それだけでも立派なことだ。



 できたふりをして、自尊心を守ってはいけない。

 嘘をついても、馬には見抜かれる。

 できないなりに、ハードルをさげて、小さな成功を必ず勝ち取ることだ。

 それが小さくても真の自信に繋がる。

 人にとっても、馬にとっても。


 毎回、ハッピーエンドなら、人にも馬にもハッピーな乗馬ライフだ。

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