馬は人を乗せることが好き


 私は、馬と仲良くなりたいと思って、乗馬を始めた。

 初めて馬に乗った時は怖かった。

 でも、徐々に楽しくなりはじめ、少し乗れるようになり、ちょっと奢った時もあった。

 が、それも一年ほど経つと、少し乗れるようになったことから、初心者でも安全な馬から離れ、何度も落馬を繰り返し、だんだん怖くなってきた。

 上達しないことに苦悩しはじめ、後からはじめた人と自分を比較しては焦り、私は馬と仲良くなれない人間なのでは? と思い始めた。


 馬は凶暴で、弱いものにはつけこみ、強いものには従う。

 私は、馬にバカにされる、そういう星の下にいるのだな、と感じていた。


 その頃の私は、自分のことを哀れむばかりで、馬を見る目をつぶっていたのだ、と思う。


 馬への無知は、最大の敵だ。

 愛情をかけているつもりが、馬を不幸に陥れていることもある。

 また、馬に悪いことをしているんじゃないか? と不安になるのも、無知であるからだ。


 馬は、人とともに生きることで、種を繋いだ。

 人間が守るべき弱い動物。

 繊細な心を持ち、傷ついたことを忘れない。

 ストレスに弱い。

 安全安心が大好きだ。

 でも、退屈は嫌いだ。

 栄誉を知っている。


 そういうことがわかってきた。


 馬を知れば、どうすれば馬が喜ぶか? もわかってくる。

 人参をあげて、馬に喜ばれているわ……で、その先に進めない人はたくさんいる。

 人参だけが目的でしょ? などと自嘲的になる人に、馬は理解できるだろうか?


 馬は、自分を守ってくれる人が好きだ。

 安全を保障してくれる人を大切に思う。

 褒めてもらえると喜ぶ。叱られると不安になる。

 そもそも、群れのリーダーに従って動き、危険を回避してきた動物だから、頼りになる存在がいると、それだけで自信を持つ。


 人に乗られてかわいそう……と思ってはいけない。

 なぜなら、自分の乗るという行為が、馬を不幸にしているのだ、と思い込んでしまえば、乗馬が虐待になってしまうからだ。

 確かに、乗られてかわいそうな馬もいるが、そういう不幸な馬には乗らないことだ。馬をいたぶって楽しむ人にならないことだ。


 馬をいたぶるために乗馬を始めたのではないだろう。

 仲良くしたいから、乗馬を始めたのだろう。


 幸せな馬は、人を乗せることが好き。

 なぜなら、人が喜ぶからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る