馬は弱い動物


 馬という動物について、あれこれ書かれているものは多いから、私があえて書くこともないだろう。

 乗馬を始めれば、インストラクターが手取り足取り教えてくれるはず。

 だから、あまり教えてもらいえないことを書くことにする。


 馬はとても弱い動物だ。

 おそらく、あなたが思っているよりも、はるかに弱い動物だ。


 先にも書いた。

 馬は、野生のままでは生き残ることができなかった動物だ。

 人が使役しやすいと気がついて家畜化し、それで絶滅を乗り越えた。

 特にスピードに特化して品種改良されたサラブレッドは、人の手なしで生きながらえるのは不可能に近いだろう。

 天敵の肉食獣はいないとしても、あの体を維持するだけの食料を確保するのは大変だ。相当広い牧草地が果てなく続かないと無理だろう。昼夜放牧で飼っている馬も、よく見れば、乾草ロールが入っている。

 しかも、蹄は弱い。石を踏めば怪我をするし、ぬかる地ならば腐るし、負荷のない土ならば伸びすぎてしまう。

 人間が、都会につかれて、たまに離島でのんびりしたい……はいいことだけれど、そこで一生サバイバルしろ、と言われたら、自信がないのと一緒だ。


 人に乗られるなんてかわいそう。

 馬は自然の中で野生でいるのが一番幸せよ!

 ……という人が時々いる。


 私はそうは思わない。が、馬に聞いたわけではないので、本当のところはわからない。

 でも、はっきり言えることは、人の手が馬に不幸をもたらすと考えている人は、けして、馬とは仲良くなれない。

 そりゃそうだ、その人も人間なのだから。

 馬と仲良くなれる自分を否定している。

「私と触れ合う馬は不幸」と信じている人が、馬と仲良くなれるはずがない。遠くで馬を拝みながら、愛しく思うだけだ。


 馬は、人と生きる道を選んだ動物だ。

 だから、あなたを乗せて不幸なはずはない。むしろ、幸せになるチャンスをつかんだのだ。


 人間だって、プータローが幸せで、仕事をして稼いで生活している人が不幸だろうか? 

 まぁ、プータローで生活が保障させているのであれば、これほどいいことはないかも知れないが、元気な人間はやりがいを求めて働きたがるものだ。

 問題は……その職場がブラック企業である場合だ。

 馬も同じで、もしも、人に乗られてかわいそうな馬がいたとしたら、それは、ブラック企業……つまり、扱う人や環境の問題であるはずだ。


 馬は弱い動物だ。

 人間が手を差し伸べて、守ってあげるべき存在だ。


 不良少年のような馬もいる。

 時に蹴られたり噛まれたり落とされたりして、すっかり意気消沈してしまうと、ついつい、忘れてしまいがちであるけれど。

 それでも、馬は弱い。

 力はずっと馬のほうがあるけれど、それでも、あなたのほうが強いのだ。


 馬は、人間とともに生きる動物。

 人間が支えないとダメな弱い動物だ。

 その馬が幸せになれるか、不幸な一生を送るかは、携わった人間次第だ。

 

 


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