窓や送り火など

韮崎旭

窓や送り火など

 窓の外には連合弛緩。窓の外には排気ガス。あなたが有害な、世界の縮図。取り出されたアストロラーベは故障している。

 窓の外には体温を投げ捨てる。私自身を切り刻んで捨てる。その過程が酷く煩雑。

 アスファルト舗装が血を飾っている。夜が更けたか不如帰が鳴いたか。

変える場所が窓の外か。解剖台の上ででもない限り眠れそうにない夜だ。

悲しいのかと問われれば、悲しさがわからないのだと言い、疲弊したのかと問われれば、僕自身が間違いに手違い、加えて気違いまで盛り込まれて手に負えない不条理なのだと(答える)。

 電車が轢断する夏の大三角、正気で以て切断される地獄。

 窓の外にはマクロコスモス。窓の外には魔界。窓の外なら城壁を閉めた。もう安心だ、賊の類や疫病からこの市は守られる。そうして酒盛りでもしようものなら、聴き飽きた怪談のさなかに一人ずついなくなる。一人目は斧で頭を割られた。二人目は塹壕戦で病死した。三人目は工作機械に巻き込まれ、四人目は気が違って自分の右目を抉りだす。五人目が将来も現在も過去をも悲観して首を括り、六人目は徴兵を免れるために在住のアパルトマンの窓を開けると下の通りに誰もいない時刻にそこから飛び降りた。七人目は毒杯をあおり、八人目は笑気ガスで窒息する。九人目は浴槽で、睡眠薬とともに溺水で以て終わりのない眠りにつき、もちろん想像に難くないことだが、その館だか城市だかにいる人間の数など誰も知らなかった。メイドなどの屋敷の維持管理にかかわる被雇用者は暇(いとま)を出されていた。おかげで誰かが慣れない調理をしたせいで、十人目以降の18人が食中毒で死亡した。腸管出血性大腸菌が、その原因となった料理や調理器具から検出された。

 線路の上には極楽が広がっているらしい。踏み出す足取りも軽く、ヒマワリはとうに時期を過ぎていた。盆の送り火を横目に、誰かが口笛を吹く。

 私はピアノの音が風鈴を務める夜中に、冷気の傍で喉を裂く。その傷口から朝顔が微笑むのを幻視した。その傷口から夏の手触りを聞き取った。朝が来るのが待ち遠しいな。その頃にはもう死んでいる。冥府の朝は涼やかと聞く。

 分断された、全ての想起に、歓喜と終末を、わずかながら贈れるのだろうか?

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窓や送り火など 韮崎旭 @nakaimaizumi

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